8人が本棚に入れています
本棚に追加
蛇はぶくぶくと膨らんでゆき、たちどころに見上げるような大蛇となった。
「わしと一つになれば、お前の人としての生はここで終わる。さすれば老いや人との柵に煩わされることもない。なにより、結婚しなくてよくなるのだぞ」
私はごくりと唾を飲み込んだ。蛇の言葉が、甘美なものとして身の内に響く。
あれほど嫌がっていたもの全てから、逃れられるのだ。
(ならば。私は人とでなく神とひとつになるほうがいい)
そんな思いがよぎった瞬間――ばくりっと頭から飲み込まれた。
痛みはなかった。柔らかな圧迫感の中、蛇の蠕動を全身で感じた。
(ああ、もう――頑張らなくていいんだ)
奥へ奥へと運ばれながら、意識がゆっくり遠退いてゆく。
今までにない安らぎを覚えながら、永久に続くような生暖かく狭い空洞をずむずむと墜ちていった。
完
最初のコメントを投稿しよう!