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その後、妹はあっけなく見つかった。
美緒ちゃんの話では、金魚すくいのところでうずくまりじっと金魚を眺めていたそうだ。屋台のおやじも堂々たる冷やかしにさぞや困ったことだろう。
反対方向の通りを血眼になって探して、やっぱり見つけられなくてとぼとぼと神社の境内へ向かった私は、美緒ちゃんに手をつながれて立っている妹を見つけて愕然とした。私があれだけ探しても見つからなかったのに!
おーいと手を振る美緒ちゃんにかけよっていくと、妹はびくっとして美緒ちゃんの後ろに隠れる。どんな表情をしていたのかはわからない。戦隊ヒーローのお面をかぶっていたから。
「ほら、おねーちゃん来たよ」と美緒ちゃんがさとすが、陽依里は「んんん」とうなって隠れたままでいる。それにしてもこの子、初対面の美緒ちゃんになつきすぎじゃないだろうか。
「勝手に逃げ出したから怒られると思ってるみたい」
美緒ちゃんがこそっと教えてくれる。
なるほど。悪いことをしたという自覚はあるのか。
私はしゃがみこんでエコソルジャーレッドに目線を合わせる。
「ごめんね、私もいいすぎた。おわびにヒヨリの好きなもの買ってあげる……あと800円しかないけど」
そして使ったぶんはあとで母にきっちり請求させてもらうけれど。
「……ほんと?」
レッドが一歩前に出てくる。
「ほんとだよ」
「怒ってない?」
「ちょっとは怒ってたけど、それより心配だった」
「さびしかった?」
「うん」
私はそっとエコソルジャーレッドのお面を上げる。
するとそこには、泣きべそを必死にこらえている妹のいじらしい顔が……
あるはずだというのは純粋な心を持つ姉の幻想で、実際には目玉をひんむいて口をとがらせた、渾身の変顔があった。
不覚にも「ブッ」と噴き出してしまう。
すかさず、美緒ちゃんがスマホのシャッターを切る。
「イエーイ!大成功!」
バチッとハイタッチを交わすふたり。妹はこれ以上ないほど大はしゃぎで、美緒ちゃんは腹を抱えて大笑いしている。
なぜ陽依里が美緒ちゃんになついているのかわかった。こやつら、似た者どうしだ。
私の中の美緒ちゃんの好感度、だだ下がり。
「いやあこの子スジがいいよ! あたし鉄板の変顔を伝授したら、さらにその上をいくんだもの」
美緒ちゃんが涙目になりながら差し出してきたスマホの画面には、見事なひょっとこ面の妹と、目が点になっているマヌケ面の私が写っている。あまりによく撮れていたので、私も怒りを忘れて笑ってしまった。周囲の人が何事かと目を向けてくるけれど、それでも笑いがおさまらない。
やっと落ち着いてきたと思ったころ、ぐーっとお腹がなった。
「あー、お腹空いた。お好み焼きが食べたい」
私がいうと、美緒ちゃんも「賛成ー!」と挙手をする。「でもその前にトイレー!!」といって元気よく走っていくので、私と陽依里はまた笑いがぶり返してしまう。
数分後、公衆トイレから出てきた美緒ちゃんは浮かない顔をしている。
「具合悪いの?」ときくと首を振って、ぽつりという。
「あのね、ここのお便所、トイレットペーパーが切れてるうえに、手洗い場がないの……」
気まずい沈黙が流れる。
その気まずさを洗い流すように、桜の花が美しい。
でもやっぱり、この先私が屋台で買い食いをすることはないかもしれない。
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