没個性

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没個性

 戦場とは無慈悲な場所だ。 一兵卒の私は、上からやれと言われたらやるしかない。 決して嫌々ではない。軍規うんぬんではなく、そういうものなのだ。  ……しかし。しかしだ。  私は今の自分が好きだ。戦場を飛び回り敵を翻弄するのが私だ。 故に自分が自分でなくなることだけは到底受け入れ難かった。 そんな私は自分のまま捨て駒になれと言うのであれば、喜んでそうするだろう。だが、指揮官は自分を捨てろと言うのだ。  指揮官は攻撃力を重視して鈍重な装備を与えることを好む。 確かにそれさえあれば、どんな貧弱な者にでも一様に大きな力を得ることができるだろう。みな同じ力になるということ……。それすなわち、個性を犠牲にする事を意味しているのだ。  今私は、敵陣を前にして運命の岐路に立っている。次に指揮官の命が下れば、私は自分自身を捨てることになるだろう。もし引き返すことができればそうしたかった。しかしそんなことは到底できない。私には前に進むしか道が無いのだ。 その時、指揮官の手が私の体に触れた。 ーーここらが潮時か。  私は覚悟を決める。たとえ私が私でなくなっても、魂は死なず。次に生まれ変わっても指揮官を守るために戦う。そう信じて私は死地へと飛び込んだ。
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