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「要するに」
口をあけて、ポカンとしている私を見、今度は羽田理津子が中途で引き取って続けた。
「あなたは私たちの、唯一の手がかりなのよ。良くも、そして悪くもね」
「……手がかり?」
目の前にいる羽田理津子の、これまでテレビでも映画でも一度も見たことのなかったような、そんな沈鬱な表情を見ながら、私はつい身を乗り出していた。
✔︎
いま、部屋の中で聞こえてる音といえば、片隅に置かれて静かに動いてる、空気清浄機の作動音だけだ。
とても、静かだ。
さっきからユカにラインでこの窮状を訴えたくて仕方がなかった。でも、とてもそんな雰囲気じゃないので我慢するしかない。
「しかしねぇ……」
初老の男性が、ようやく口を開いた。
「この子がうちに持ってきてしまったこのカバンとは、そもそもいったい何なのかね? え? 森村さん」
森村というのは、きっと羽田理津子の本名だろう(知らなかったけど)。軽く迷惑そうにしている彼に、羽田理津子は対抗するかのようにして言う。
「ですから、私と夫との、兼用のカバンですよ」
「それはわかっとる。しかし、それで?」
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