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約束の日に、瑠璃子様は男性といらっしゃいました、私はすっかり旦那様かと思ったのですが。
「父です」
瑠璃子様はこともなげにおっしゃいます。
私は驚きました、どう見ても瑠璃子様よりお若いかたです。と同時に納得もしたのです、きっとお母様の再婚相手がご自身よりもお若いかたで、恋心を抱いてしまったのだと。
複雑な家庭環境を垣間見ました。
その一線を越えるのは、お互いいけないことだと判っていてもなお、惹かれずにはいられないのでは……。
「お父さんって言うな」
男性はことさら嫌そうに言います、ん? お互いいけないこと、ではないのでしょうか……?
嫌そうに細めた目が、転じてはっと見開かれたのが判りました。視線の先はトルソーが来た純白のドレスです。
ほう、とため息を吐きました。それを見た瑠璃子様は僅かに視線を反らせます。
お母様と重なるのが、お嫌なのですね。それでも着ていただかなくてはなりません。
「ご試着をお願いできますか?」
瑠璃子様は呟くような返事をして試着室に向かわれます、私はトルソーからドレスを脱がせて試着室に運びました。
まもなく中から声がします。
「お父さーん、背中のファスナー閉めてー」
「自分でやれ」
男性は即答しました。
「だって届かない。じゃ仕立屋さん、お願いできる?」
私が困って肩を僅かに上げると、男性はため息混じりに試着室に向かってくれました。
「開けるぞ」
ほんの少しカーテンを開いて顔と腕だけ入れます。
「おい、もう少し上げる努力したあとを見せろよ。ああ、もういい、ほらもう少しこっちに来い。は? そこまで俺にさせるのか、早くこっちに……来すぎだ、近い」
まもなく男性がカーテンを開きました、それはそれは美しい花嫁が現れます。
金色の髪に白いドレスがこれほど映えるとは──まさしく女神のようです。
「──お美しいです」
思わず言っていました。
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