自分に出来ること

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「もう、調子はいいの?」 「ええ、歳にはかなわないですよ。ちょっとの無理もきかなくなるんだから」 アヴァに答えながら、カリンは小さく、笑う。 あれから2日でカリンは通常の生活に戻った。 しかし、公爵邸は倒れる前よりも何やら慌ただしい。 見慣れない人たちが屋敷に出入りしていた。 説明もされないまま、アヴァや執事の指示に従う。今日は公園に行かなくてもいいらしい。 午後になると、さらに慌ただしくなり、エントランスのアプローチに馬車が何台も到着した。 中から貴族と思しき紳士達が馬車から降りてきた。 当主であるマクシミリアンの代わりに執事や従者たちがそれぞれ対応に当たった。 カリンはアヴァからの言伝を執事に伝えようとアプローチに出ると、そこには白髪の痩身の貴族がいた。 執事とともに邸宅内に入ってきており、また、執事にも指示を出す様子から、だだの客人でないと察する。 肥満ではない厚みのある体格は他人を威圧するものがあり、また男らしいが荒々しくない立ち位置振る舞いが無意識に恐縮させる。厳しい表情や伝聞的な口調から気難しい人物なのかもしれない。 エントランスホールの端で客人と執事の話が終わるのを待つ。 客人の顔を不躾に見ないように俯き、頭を下げていたが、不意に視界に影ができる。 そして、しばらく動かない影を不思議に思い、視線をあげる。 すると、間近に先ほどの客人が立っていた。 慌ててもう一度頭を下げる。 「サリエル、これが件の人物か?」 「はい、左様でございます」 上から不躾な視線を感じて、うなじがざわざわする。 不快感に耐えられそうにないので、適当に言い訳して逃げてもいいだろうか? 以前であれば、貴族だろうがなんだろうが、無視してこの場を去ることに躊躇いなどなかったはずなのに、それをしないだけの様々なしがらみができてしまった事を自覚して、心が陰る。こんな自分は自分ではない、という嘲りに、口角が上がる。 首を垂れていることが幸いして、二人には気づかれなかったようだ。 「カリン、バリー侯爵様だ。マクシミリアン様の叔父にあたられる」 あのヘラヘラした掴み所のないジョルダンの父か。印象は違うが、何を考えているかわからないという点では、共通点がありそうだ。 とりあえず、下々から挨拶するのが筋だろうと、カリンは一度頭を上げ、再度深く頭を下げる。 「カリンと申します。先日のご縁でマクシミリアン様の恩恵により、こちらに勤めてさせていただいております」 自分で言っておいて、鼻で笑いそうになる。 これはアヴァから指導された回答だった。 こちらとしては、好き好んでこんな事をしているわけではないのだ。
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