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プロローグ
若者は敵のしつこさに舌打ちしたい気分になった。
盗賊と思しき身なりの男たちの動きは物取りというより、刺客のそれであった。
さしずめ、盗賊の襲撃をうけて、うっかり刺されて死んでしまった、と状況を作りたいのだろう。
自分に向けられる殺気は本物であり、相打ち覚悟で打ち込んでくる。
護衛のためについてきた騎士たちも健闘しているが、いかんせん敵の数が多いうえ、かなりの手練れ共だ。
多少、自分の腕に自信があるが、本職ではないので、そろそろ限界が来そうだ。こんなところで、殺されてやる道理もないので、どうするか剣を受け流しながら思案する。
「公爵様!」
その叫び声を聞いて振り向いた瞬間には、もう背中を切られていた。激痛にうずくまる前に前方から剣戟が飛んでくる。渾身の力を振り絞り、右手に握った剣でそれを弾きかえす。
怯んだ相手の胴体めがけて剣を突くように体当たりした。
剣が相手のどこかにささったかも確認せずに剣から手を離し、相手を突き飛ばしながら、正面の森に向かって走り出した。
ここは黒い森と言われる、原生林の中だ。方向も分からず、とにかくまっすぐ走る。
背中が燃えるように痛い、それでも、止まるわけにはいかない。
木の根や草に足を取られながら、伸びる枝や背丈の高い草から腕と手で顔を守りながら。倒れるわけにはいかない。
次第に、剣戟や追っ手の声が遠くなるのを感じる。なんとか、逃げきれるだろうか?
夜でよかった。運良く、森の暗さが自分を隠してくれたのかもしれない。
それでも、足を止めることはせず、歩き続けた。背中の感覚がない。体が重かった。熱があるのかもしれない。手足は枝や草でボロボロだが、止まる気にはならなった。
しかし、限界がきたのか、何かにつまずき、体を支えることができず、地面に腹ばいに倒れた。
倒れている場合じゃない。起きなければ。
体は動かなかった。そして、気を失った。
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