28人が本棚に入れています
本棚に追加
1.プロローグ
給水塔は六丁目の高台の上にある。
この町で一番海抜の低い二丁目から向かうと、給水塔までは小さな山登りと言っていい。
夕暮れと夜の間に差し掛かった空は、茜色と紫色の二層に別れている。名残惜しそうな茜色が、徐々に上空から迫る紫色に押し込められていく。
あたしは吐く息を白いわたあめに見立てて、それを大きな口でほおばった。大きなわたあめがふわりと砕ける。そこらに無味の小さなわたあめが散らばっていく。あたしはぶんぶんと腕を振って、小さなわたあめたちを宙に溶かした。
もう給水塔が随分大きく見えてきた。逆円錐形の給水塔はベージュ色で、普段は太陽の光を反射させて明るく見える。こうして闇を背負うと、ものものしい要塞のように見え、昼の姿より大きく見える。
給水塔の最上段に、ぽつんと小さな人影を見つけた。あたしは給水塔に続く最後の急勾配を息を切らせて駆け昇った。
最初のコメントを投稿しよう!