4.丹羽雄吾

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 その日の放課後、いてもたってもいられずに、仲間と遊んでから帰ろうと、ダラダラ中庭に残っていた。 「丹羽……ちょっといい?」  学校の中庭で仲間とふざけあっていた最中、後ろから肩をぐいっと掴まれた。ふざけあっていた仲間たちが目をぱちくりさせている。陽子の声だということは気付いていた。ただ、「雄吾」ではなく、「丹羽」と呼ばれたことで、すぐには振り向けなかった。  振り向くと、皆が目をぱちくりさせていた理由が分かった。陽子の表情は怒りに満ちていた。中庭へ僅かに流れていた風が止み、亀がぽちゃんと池に逃げる音だけが聞こえた。 「あぁ、陽子。どした?」  取り繕った声と自信のない表情だった。陽子はそれを見透かしていたように思う。 「ださいで。あたしがいっちゃん嫌いなやつやわ」  陽子はそれだけ言った。  俺と陽子は釣り合っていた。そう思っていたが、いつからか天秤は陽子の方へ傾いていたように思う。勉強もスポーツもできるが、陽子には正義があった。子供の頃の俺は正義を持ち合わせていなかった。やっと気がついた。初めて、悪いことをしたのだと分かった。  陽子が何を言わんかはすぐ理解できた。石川たちの様子がおかしかったのも、おそらく陽子が気付いて問い詰めたのだろう。俺は黙って下を向くしかなかった。 「ださい。ただ、そんだけ。優芽たちよりよっぽどださい。雄吾はそんなやつじゃないと思っとったのに」  陽子はそれだけ告げて、涙を溜めながら踵を返し中庭を出ていった。最後に雄吾と呼んでくれたことが、深く胸に突き刺さった。
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