4.丹羽雄吾

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 しばらく、学校へ行く時間を遅らせた。とても陽子と顔を合わせられない。  対して、陽子は堂々としていた。おそらく糾弾したのであろう石川たちに対しても、冷たくするのではなく同じように接しているように見えた。 「おはよ」  渡り廊下ですれ違うと、陽子は俺にいつもと変わらない調子で挨拶してくれた。返事を、返せなかった。 「雄吾、おはよう」 「んあ、おはよう」  陽子はにこっと笑って、行ってしまった。  それが折茂陽子だ。  いつまでもねちっこく引きずることをしない。運動神経抜群で頭も良い、小六ながら美しささえ兼ね備える。ただ、それが一番ではない。陽子には圧倒的な光がある。眩しく、人を惹き付け、万物を覆うほどの光だ。  ふと、トイレの鏡を見た。自分の顔のなんと情けないことか。パンっと両頬を叩く。  昔、俺は月島楓に言われた言葉をふと、思い出していた。幼稚園の頃だ。陽子と月島が遊んでいて、月島が満面の笑顔で言った。 「陽たんと雄吾くんは結婚すると思う」  月島が俺にいったい何をしたというのだ。  月島、すまん。  本当にごめん。  月島、俺さ、あの時そう言ってくれたけど、俺にはもうそんな資格がないわ。  目が、やっと覚めた。だけど、もう手遅れだ。でも、手遅れからやり直すしかない。そして、いつか、月島、お前への罪を償いたい。随分と身勝手だよな。でも、今この時、身勝手ながらそう思ったんだ。  俺らは中学生になる。次のステージで俺は生まれ変わらねばならない。  月島、お前が居なくなって、やっと思う。陽子の纏うあの光は、お前がそばにいたからだ。俺では、陽子を輝かせることはできなかったろう。どこかで幸せな卒業式を送っていて欲しい。ただ、それを願う。
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