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しばらく、学校へ行く時間を遅らせた。とても陽子と顔を合わせられない。
対して、陽子は堂々としていた。おそらく糾弾したのであろう石川たちに対しても、冷たくするのではなく同じように接しているように見えた。
「おはよ」
渡り廊下ですれ違うと、陽子は俺にいつもと変わらない調子で挨拶してくれた。返事を、返せなかった。
「雄吾、おはよう」
「んあ、おはよう」
陽子はにこっと笑って、行ってしまった。
それが折茂陽子だ。
いつまでもねちっこく引きずることをしない。運動神経抜群で頭も良い、小六ながら美しささえ兼ね備える。ただ、それが一番ではない。陽子には圧倒的な光がある。眩しく、人を惹き付け、万物を覆うほどの光だ。
ふと、トイレの鏡を見た。自分の顔のなんと情けないことか。パンっと両頬を叩く。
昔、俺は月島楓に言われた言葉をふと、思い出していた。幼稚園の頃だ。陽子と月島が遊んでいて、月島が満面の笑顔で言った。
「陽たんと雄吾くんは結婚すると思う」
月島が俺にいったい何をしたというのだ。
月島、すまん。
本当にごめん。
月島、俺さ、あの時そう言ってくれたけど、俺にはもうそんな資格がないわ。
目が、やっと覚めた。だけど、もう手遅れだ。でも、手遅れからやり直すしかない。そして、いつか、月島、お前への罪を償いたい。随分と身勝手だよな。でも、今この時、身勝手ながらそう思ったんだ。
俺らは中学生になる。次のステージで俺は生まれ変わらねばならない。
月島、お前が居なくなって、やっと思う。陽子の纏うあの光は、お前がそばにいたからだ。俺では、陽子を輝かせることはできなかったろう。どこかで幸せな卒業式を送っていて欲しい。ただ、それを願う。
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