5.児玉華

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 毎晩、犬のチップを散歩に連れていくのがあたしの日課だった。日が沈む頃に散歩に出掛けるのは、以前に男子たちに会ってチップに石を投げられたからだ。それからは、人気がなくなる日暮れ頃から散歩するようになった。  すっと、夕方の夜空に星が浮かび始めるのが好きだった。あたしは、星たちにもっと楽しい学校になりますようにと毎日祈った。チップが「ワン」と空に吠える。飼い主様をいじめないでと言ってくれていたのかもしれない。  とある金曜日、給水塔に二つの人影を見つけた。遠くて小さいが、あたしと同じくらいの子供ではないかと思った。 「チップ、あれ、あたしとおんなじくらいの子供やわ」 「ワン!」  それから毎週の金曜日、決まってその二人の人影を見つけた。遠くからでも分かる。二人は楽しげに話をして、星を見ているようだった。 「織笠小の子はええなぁ。悩みもなーんもなく、あそこで学校であった楽しいことでも話してんねやろなぁ」 「ワン!」  あたしはチップの頭をそっと撫でて、坂道の下から給水塔に腰かける二人の少女を見守っていた。あたしも織笠小の子と仲良くなりたい。  そんな日々を過ごすうちに、いつからか二人の人影は金曜日になっても現れなくなった。飽きてしまったのだろうか。そんなことを考え、チップのリードを引きながら小学校の卒業を待った。
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