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あたしにとって、楓ちゃんは大きな存在だった。あたしと楓ちゃんはお互いを補完しあって生きてきた。出会って、小学校に上がってからもずっとだ。
楓ちゃんはスポーツが苦手で、マラソン大会では随分遅れてゴールする。勉強でも、先生が言っていることが分からないことがある。それどころか、「先生、社会って何ですか?」と、突拍子のない質問をして授業を止めてしまうこともある。
月島さんって、変やわ。そんなことを言う同級生も少なからず、いた。
でも、あたしは知っている。
楓ちゃんは虫のことをよく知ってる。風がどの時期にどこから吹くかを知ってる。あたしたちが知らないことを楓ちゃんは知っているのだ。そして、なにより全てにおいて楓ちゃんは優しい。クラスメイトにも、動物にも、虫にも、太陽にも雨にも、楓ちゃんは平等に接するのだ。あたしはそんな楓ちゃんを幼稚園の頃からすごいと思って生きてきた。
楓ちゃんは不思議な感覚を持ち合わせてもいた。あたしのことを全てお見通しなのだ。あたしがご機嫌な時、それが斜めの時、調子に乗りすぎる時に、我慢している時、楓ちゃんはそれを見透かしていた。いつも突っ走るあたしを優しい言葉で制した。あたしがどうすれば良いかを、いつもにこにこと教えてくれるのだ。
あたしに無いものを楓ちゃんは持っている。楓ちゃんに無いものをあたしは持っている。
いつか思った。
地球のみんなはこうして何とか保たれているんだ、と。昔、たくさん戦争があった。今もどこかで戦争が起きている。その時代、その場所では、たぶん誰かが足りないのだ。地球上のみんなは誰が欠けてもいけないんだ。人だけじゃない。生き物すべてが欠けてはいけないのだ。
ずっと背が高かったあたしは、みんなの頭頂部を見ながら生きてきた。そんなあたしが人を見下したりせずに生きてこれたのは、きっとあたしは楓ちゃんからそれを学んだからだと思う。
そんな楓ちゃんとあたしは、小学校五年生で離ればなれになる。
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