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今思えば、最初の違和感は小学校三年生のとある日に訪れていた。
家のおもちゃでひと通り遊ぶと、お互いに外で遊びたくなった。目と目を合わせるだけで同じ意見だと分かる。
「おばさん! 楓ちゃんと公園行ってくんね」
「うん、もう暗くなるから一時間したら帰ってきてね。楓、時計が五時になったら陽ちゃんと帰ってくるんよ?」
楓ちゃんが住む団地の階段を駆け降りると、まだまだ太陽はぎらぎら降り注いでいた。通りに出ると、アスファルトと土と草の匂いが次々に鼻を襲った。
楓ちゃんは首からぶら下げた大きな時計を見た。おばさんが書いた「いちじ」「にじ」「さんじ」といった字がベゼルに貼られている。まだ楓ちゃんは時計を読めない。その訓練だろう。
「陽たん、向こうの公園に行こう」
赤い自転車に跨がった楓ちゃんはおそらく、ここから少し遠い公園を指差した。
あれ? またか。
あたしはこの時、小さくそう感じたのを覚えている。
「あ、うん。てんとう虫公園やんね。いいよー。楓ちゃんさ、最近てんとう虫公園好きやんな」
「うん、うちはあっちが好き」
楓ちゃんの家からすぐのところに織笠町第一公園という公園がある。大きな時計台と大きな滑り台、ブランコは六つもある。あたしたちは知り合った頃からずっと第一公園で遊んでいた。遊具もたくさんあるうえに、喉が乾いたら水飲みもちゃんとある。だが、いつからか、楓ちゃんは第一公園ではなく、家からずいぶん離れたてんとう虫公園を好きになった。
「空いとるし」
楓ちゃんはてんとう虫公園を好きな理由を笑いながらそう言った。その時は第一公園を嫌いになったとは言わなかった。
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