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「ぼくぜんぶのみたい!」
少年が母親の方を向いて3つの滝を指差している。
「欲張るとご利益がなくなるのよ」
「だめなの?」
「でも、湧水点は同じなんだろ」
「またそんなこと言って」
理系的な発言をする父親に、母親が呆れたようにため息をつく。
「・・・は右の滝がいいわね」
母親が少年を抱き上げて、延命長寿のご利益がある滝へと導く。
母親が少年の名前を呼ぶ部分だけ、何故かうまく聞き取れなかった。
「はい、あーんして」
「ぼくじぶんでのめるよ」
「そう?じゃあ、はい」
「うん」
母親から水の入った柄杓を受け取り、ゴクっと飲み込む少年。
「おいしい!」
満面の笑みを浮かべているが、柄杓からこぼれた水で服はびしょびしょに濡れていた。
「もう、しょうがないんだから」
呆れながらもまんざらではない表情で、少年の服をタオルで拭く母親。
「お前は飲まなくていいのか?」
「私はいいのよ。・・・が元気に育ってくれることが私の1番の願いだから」
「そうか・・・」
そんな愛情あふれる母親の言葉に、父親は何故か複雑な表情を浮かべていた。
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