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「やっぱりそうよね。パパとママだけ無事なんて、そんな都合の良いことないわよね」
空いていた席に適当に座り、あっけらかんと話す古川。
しかし、それが空元気であることは僕にもわかる。
「先輩。大丈夫ですか?」
「平気よ、平気!むしろ最終試練のやる気が出たくらいだわ!」
そんな彼女に、僕は気の利いた一言も掛けてあげられない。
むしろ気を使われる始末だ。
自分のことがひどく情けなく、小さい人間に思えてしまう。
今まで人類をジャックと言われても、あまりピンときていなかった。
それは、目にしてきた人々が赤の他人であったからだ。
それはきっと先輩たちも同じで。だからこそ新谷は古川食堂に行くことを提案し、古川もそれに乗ったのだ。
しかし、見知った人物に声が届かない場面を目の当たりにしたことで、この非現実的な事態を現実として受け入れるしかなくなった。
その現象が自身に降りかかった時のショックは、相当なものだったろう。それが家族ともなれば尚更だ。
認知すらされないという究極の寂しさ。
今なら、怪奇現象を起こす幽霊の気持ちも少し分かる気がした。
「瞳、食うか?」
「翔?」
僕と古川が座っている席に、さきほどから姿が見えなかった新谷がやってきた。
「これって・・」
「ああ、親父さんの得意料理の炒飯や」
古川は新谷が持ってきた炒飯をじっと見つめ、やがて口へと運んだ。
「・・うん、おいしい」
「せやろ」
「うん。パパの次に美味しいわ」
「さすがに、親父さんには敵わんやったか」
「あたりまえでしょ!」
ちょっとした文句を言いながらも、古川の手が止まることはなかった。
「先輩には敵いませんね」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもないです。僕にも炒飯ください」
「しゃあないなー」
そう言って厨房へと向かう新谷の背中は、やけに大きく感じられた。
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