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「ここが俺の部屋や」
「うわー。全然変わってないわね」
長い廊下の突き当たりの部屋。
新谷が使っていたというその部屋は、綺麗に整理整頓がされており埃一つ無かった。
「先輩って、兄弟いるんですか」
「ん?おらんけど」
「そうですか」
ということは、新谷が東京に行った後も、この部屋を定期的に掃除している人物がいるというわけだ。
「先輩、愛されてますね」
「へ?なんでそうなるんや」
「はぁ。ほんと残念ですね」
前から思っていたが、新谷は人の気持ちに疎い部分がある気がする。
古川とコミュニケーションをとるために、犠牲にでもなったのだろうか。
それとも、周りの人間の目を執拗に気にしてしまう、僕の方がおかしいのだろうか。
「あ!これ懐かしい!」
古川が本棚からとある漫画を抜き出した。
その漫画は『おわりの百歩』というボクシング漫画で、関西出身の主人公がチャンピオンを目指す話だ。
「それ、瞳が「関西の男は強いんだよ」って、勧めてくれたんよな」
「そーだっけ?」
「そうやで。そんで、瞳の言う通りに関西弁で喋るようにしたら、不思議と熱がでらんことなったんや」
幼少期の新谷は身体が弱かったが、関西弁で喋るようになってからは、みるみる元気になっていったらしい。
『病は気から』という言葉があるが、その類の話だろう。
それか、体の成長に合わせて単純に丈夫になっただけか。
どちらちしろ、おわりの百歩の主人公は鍛えた結果強くなったのであって、関西弁はあまり関係ない気がするが。
「えーと。確かこの辺に・・・あった」
今度は新谷が本棚からとある本を抜き出した。
「それが目的のものですか?」
「ああ。そうや」
新谷が手に取ったのは、ヒトノインターネット(IoH)特集の雑誌だった。
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