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「どうした、守!」
「守、大丈夫!?」
僕の声を聞いた先輩たちが、慌てた様子で台所へとやってくる。
「すみません、誰もいないものと思ってたので・・・」
僕の言葉を聞いた新谷が、その真意を確かめるべく前方に視線を移す。
「・・・ばあちゃん?なんや、家におったんかいな」
その視線の先にいたのは、新谷の祖母であった。
言われてみれば、古川はこの家の扉を勝手に開けていた。そのことから、家の中には誰かが居ると考える方が普通だ。
それでなければ、防犯意識の低い金持ちという、空き巣にとって格好の獲物となってしまう。
新谷の祖母は、戸棚から壺を取り出すと、なにやら作業を始めた。
「翔、あれってぬか床じゃない?」
「ああ、そうみたいやな」
「翔のばあちゃんのぬか床、とっても美味しいのよね」
新谷は黙って頷くと、ぬか床を混ぜる祖母の隣へと行き、一切れのキャベツを持ち上げて口へ運んだ。
「・・・うん。相変わらずおいしいで。・・ありがとうな」
少し歯切れが悪いのが気になったが、実の祖母に感謝の意を伝える新谷。
しかし、ぬか床をつまみ食いされたことも、感謝の言葉も。
そして、新谷が帰ってきたことさえも。
新谷の祖母は、全く気づいていなかった。
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