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───京都駅発博多駅行きの新幹線車内。
古川は乗り込むや否やすぐに眠ってしまったので、実質僕と新谷の2人きり。
そんな状況の中、僕は新谷の祖母について訊いていいものか思案していた。
祖母のぬか床を口にした新谷の歯切れの悪さが、異様に気になったのだ。
「俺のばあちゃんやけどな、東京に行く時に喧嘩してもうたんや」
僕の気持ちを知ってか知らずか、新谷は自分と祖母の過去を語り始めた。
「俺の両親は仕事柄家におらんことが多くてな。小さい時から俺の世話をしてくれたんは、ばあちゃんやったんや」
その頃のことを思い出しているのか、新谷の顔がわずかに綻ぶ。
「ばあちゃんは俺に凄く優しくてな、大抵のことは笑って許してくれた。でも、俺が東京の高校に行きたいって言い出した時だけは猛烈に反対してな」
わずかに緩んでいた表情が、再び険しくなる。
「東京の高校に行くって急に言い出した瞳について行く形やったから、反対するのも当然やわな。けど、それで諦めるほど俺の想いも弱くなかった。結局、喧嘩したまま東京に出てきたんや」
どちらの言い分も理解できる僕は、黙って新谷の話に耳を傾けていた。
「それやのに、ばあちゃんは俺の大好物のぬか床の手入れをしとった。ばあちゃんはぬか床食べんくせに・・・」
新谷の話を聞いて、彼の部屋を整理整頓していたのも祖母であろうと予想ができた。
新谷がいつ帰ってきてもいいように。部屋を掃除して、ぬか床をつくって。
新谷の帰れる場所を残すために。
「守。最終試練、絶対クリアするで」
「はい」
僕は力強く頷き、決意を新たにした。
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