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───道路の振動音しか聞こえてこないタクシー車内。
今時のタクシーには、当然のように自動運転が採用されているため、車内にはオカルト部のメンバーしかいない。
席順は、僕が助手席で先輩たちが後部座席だ。
最近のタクシーはIoHを通して行き先を指定することで、そこまでの最短経路を走ってくれる。
近くを走るタクシーはリアルタイムで反映され、支払いも自動で行ってくれるため、乗り降りもとてもスムーズだ。
しかし、今回は行き先を管理局が指定しており、こちらからは参照ができないように設定されていた。
そのため、どこに向かっているのかまるで検討がつかない。
「移動ばっかで疲れたわね。翔、なにか面白い話して」
「うわ。無茶振りやな」
芸人殺しの雑なフリをされた新谷が、うーんと頭を捻る。
「そうやな。これは俺が中学の頃の話やけど・・」
「文化祭で女装した写真が出会い系サイトで無断使用されてた話以外でよろしく」
「オチを先に言われた挙句に却下やて!?」
芸人を孫の代まで呪い殺すような古川の返しに、新谷は大袈裟なリアクションで事なきを得ようと試みる。
(先輩の女装か・・少し見てみたいな)
そんなことを思っていると、古川からIoHを通してとある画像が送られてきた。
「ぶはっ!」
「ん?どうした?」
古川から送られきたのは、真っ赤なドレスに身を包み、メイクをばっちりと決めた新谷の写真だった。
ぶりっ子のようなポーズでカメラ目線をしている新谷は、どうみてもノリノリな感じだ。
「いや、なんで・・なんでもない・・・です」
必死に笑いを堪える僕。
ふとルームミラーの方を見ると、手で口を押さえて肩を震わす古川の姿が映っていた。
「そうや、守はなんか面白い話ないんか?」
「うわー。翔、自分がスベったからって、後輩に八つ当たりは良くないわよ!」
「違うわ!可愛い後輩の面白事情を把握しておきたいだけや!それに、スベり未遂やろ!!」
スベり未遂だと、スベることが前提となり、それを阻止した古川は命の恩人になるわけだが、新谷はそれでいいのだろうか。
「面白い話ではないかもですけど、いいですか?」
ルームミラーを見ながら、真剣なトーンで喋り出す僕。
その雰囲気を察してか、ルームミラーに映る2人の先輩も、真剣な顔つきに変わった。
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