金魚
全1/1エピソード・完結
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 深い森に囲まれた湖畔にたたずむ金殿玉楼きんでんぎょくろうの豪邸。よいの空が頭上にやってくるころ、外光を閉ざした部屋のなかで、金堂薫こんどうかおるは革張りのソファに座って寝ていた。  ずり落ちるような態勢で両足をだらしなく放り投げ、頭を背もたれに預けている。磨かれたような美しい金色の髪を、黒いワンピースに垂らし、首元には純金のネックレス、両手首には純金のバングルを身に着けていた。  彼女のかたわらにはアンティーク調の黄金の鳥籠とりかごがあり、なかで飼っている金糸雀かなりあが横たわっている。 薫は静かにまぶたをひらいた。 彼女の視線のさきにあるのは大きな水槽。水槽を照らす光だけがこの部屋唯一の明かりで、ろ過装置が発する泡沫うたかただけが聞こえている。 なかでは一匹の金魚がゆったりと、たおやかに泳いでいた。目の覚めるような金色が混じった朱色と深淵しんえんを映した漆黒。そして、金剛石こんごうせきのように輝く純白の三色模様は、きらびやかに光を反射して輝いていた。水草も床砂とこずなもない無色透明な空間で、神々しいほどの存在感を放っている。その身をひるがえすたびに、なかば透きとおった尾ひれがたゆたい、切られた水泡が小さな光の粒に変わっていた。 この金魚は彼女が物心がつく頃には、すでに家族の一員として存在していた。父が一目惚れして買ってきたらしく、当時は広々としていた水槽が、いまとなっては窮屈きゅうくつそうにみえる。
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