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 そんなことを思い出していると、やがてカレーの匂いが部屋に漂って来た。しばらく経って、大河内はこちらに振り返り、鍋を掻き混ぜる手を止めた。 「出来たよ、河野くん」 「じゃあ、皿出すよ」  椅子から立ち上がった瞬間。 「あっ、大変!」 「どうした?」 「ごはん、炊いてなかった……」 ――やっぱり……。   なにかあるとは思っていた。  もはや驚くこともなく冷静に椅子に座りなおした。 「じゃ、炊けるまで、待とっか」 「ごめんね、河野くん」  彼女は申しわけなさそうに下を向く。 「いいよ、まだ腹へってないし、大河内もゆっくりしろよ」  テレビでも観るか? とリモコンのスイッチを押すとバラエティ番組が流れていた。楽しげな声が部屋に響く。  大河内はすごすごとやって来てテーブルの前に座った。  なんだかものすごく落ち込んでいる。 「私ってほんと、駄目だよね」  彼女はぽつりとつぶやいた。 「気にすんなよ」 「今度こそ、いいところ見せたかったのに」  大河内なりに気にしているらしい。 「おれもうっかりしてて、そこまで気付かなかったよ。お互い様だ」  カレーのことで頭が一杯だったのは自分も同じだ。 「ほんとうに、ごめんね」  大河内は下を向いたままエプロンの裾をぎゅっと握った。  彼女がなにかしでかすたびに、もう動じなくなってしまっている悟史にとって別になんでもないことだった。  彼女はしばしうつむいていたが、あまりにも落ち込んでいるので慰めの言葉を掛けようとすると、テレビの司会者が笑わせるひと言を発した途端、おもむろにひょこっと顔を上げた。  だが次の瞬間にはもう笑っている。 ――切り替え、早っ。  相変わらず立ち直りが早い。  彼女は一時落ち込んだとしても「ま、いっか」とばかりに忘れられるのだ。  まあ、二度と同じ過ちは繰り返すまいと思っているのだろうが。  あっけらかんとして失敗を引きずらない性格は見ていて羨ましくなるほどだ。  今、こうして誰よりも彼女が身近にいる。  この状況を、出会った頃は想像もしなかった。  中学の頃どこか放っておけず目に付いてしかたがなかった彼女が、今では自然に目に入る距離にいる。  それが今では自然に思うようになってきていた。
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