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当時、悟史は給食についてはあまり関心がなく、ただ空腹を満たすものだと思っていた。
給食だけが楽しみだという者もいるが、悟史は取り立てて好きなメニューなどはなかった。
敢えて利点をあげるとしたら、弁当などに比べ、出来立ての温かい物がそのまま食べられるということくらいであった。
その日、配膳が終わるまで読みかけの本に軽く目を通していると、廊下でガシャンと大きな物音がした。
何人かの生徒が驚いて廊下に向かう。
すると女性徒が慌てた様子で教室に戻り、清掃用具を取り出すと再び駆けて行った。どうやらなにかを零したらしい。
悟史はクラス委員という立場上、ここは一応見に行かなければならないだろうかと、しかたなく腰を上げた。
昼食の準備中、担任は人任せにして教室にいないのだ。
「河野、任せたぞ」と職員室に引っ込んでいるのだ。
廊下に出ると、カレーの容器をひっくり返したようでかなりの量が零れてしまっていた。
しかも勢いついて零したようで壁にまで範囲が及んでいる。
数名の女性徒は雑巾で懸命に拭いていたが、その中に大河内もいた。
零したのは彼女ではないようだった。
悟史は心の隅で彼女ではないかとひそかに疑っていたのだが違っていた。
彼女も、そう毎回なにかやらかすわけではないのだが、申しわけないがどうしても真っ先にそう思ってしまうのだ。
給食は学校で作られているわけではなく、あらかじめクラスごとにわけられてセンターから配られるので、給食室に行っても多分、カレーはないだろうと思われた。
そうなれば、ほかのクラスに少しわけてもらわなければならない。
悟史だけならカレーは別になくても良いが、ほかの生徒はどうだろうと考えていると、廊下を拭く大河内のスカートの裾に目が留まった。
ほかの女性徒はちゃんとスカートの裾が広がらないように気をつけてしゃがんでいるが、彼女はそのまましゃがんでいるので、裾にカレーが付いてしまっていた。
しかも動くたびにその範囲が広がる。
悟史は見かねて注意した。
「おい、大河内、スカートの裾汚れてるぞ」
彼女は「え?」と立ち上がり、裾を確かめた。
「あ、どうしよう」
「早く洗わないと、落ちないぞきっと」
「ほんとうだ、大変」
彼女は慌てて洗面所へ向かった。
その後、カレーはほかのクラスから少しずつわけてもらった。量は少し減ってしまったが、一応ことなきを得た。
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