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 悟史が一人暮らしを始めてから、もう半年が経とうとしているが、思ったよりも気軽で快適な暮らしだった。  身の回りのこともさほど苦ではない。  洗濯は洗って干すより一気に終わらせることにしており、コインランドリーで二日分の洗濯物を洗うことにしていた。  この日の夕方、乾燥まで終了したことを確認し、持参した袋に戻しているとスマホの着信音が鳴った。  ディスプレイに映し出された名は「怜衣」。  昔付き合っていた彼女だった。  連絡先をまだそのままにしていたのだ。  多少驚きながらも、今頃なんの用事だろうと思いつつ応答すると、 「あ、悟史。私……怜衣」  変わらない声だった。少しトーンが低めで語尾が少しかすれるところがある。 「怜衣……」 「元気? 変わりない?」 「ああ」 「そう、良かった……」  彼女は今、悟史と同じ市内の会社で働いていると言い、しばし互いに近況を語り合った――。  五年間の出来事がたった数分で語られた後、怜衣はようやく用件を切り出した。 「あのね、今度会えないかな」 「え? 」 「私ね、もうすぐ結婚するの」 「結婚……」  今年でお互い二十三になる。  女性にとっては適齢期だろう。 「そっか、おめでとう」 「ありがとう」  怜衣は昔から感情をあまり表に出さなかったが、今もまるで台本を読み上げたような答えかたをした。 ――結婚を決めたのに、会いたいってどういうことだ。  違和感を覚える。 「それなら今さら、会うこともないと思うけど」  すぐそばの椅子にゆっくり腰を下ろした。  静まりかえった空間にみしっと軋む音が響く。 「うん、そうなんだけど。結婚する前に一度、ちゃんと会っておきたかったの。だって私たち、別れかたがなんか曖昧だったから」  お互いに別れようと言って別れたわけではなかった。  悟史のほうが彼女より自分の時間を優先するようになり、だんだんデートにも誘わなくなってくると、彼女のほうからも次第に連絡をして来なくなった。そのうち校内で顔を合わせても挨拶程度になり、二人きりで会うこともなくなったのだ。 「別に喧嘩別れしたわけじゃないだろ。自然な成り行きだと思ってたよ」 「だって私、ずっと意地張ってたから」 「え?」 「結婚なんて本当は嘘」 「え?」 「プロポーズはされたけど、まだ返事してない。だって私まだ……」  彼女がなにが言いたいのかわからなかった。 「あれからいろんな人と付き合ったけど、そのたびに私、悟史のことばかり考えてた。連絡しなかったのは、悟史からの別れの言葉を聞きたくなかったから。それに私にもプライドがあったし、離れて行く人を追いかけるなんて恥ずかしくて出来なかったし」 「怜衣」 「でも会いたいの、私もうあの頃の私じゃない。今なら自信を持ってあなたに会える」  その言葉に、悟史は僅かに心が揺れた。  
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