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任意の図柄、例えばスペードの13枚の数字を表にして一列に並べ、ディラーがタクトの先でカードに触れていく。もし6号室に金貨があれば<6>と念じながら、それを客にテレパシーで伝達するという。
「スペードの6をわざとらしく強く押すとか叩くとかはしません。一定のリズムでコンコンとノックしていきます。こんな感じで・・・」
ディラーは、タクトを指先でつまむと、一枚ずつカードをほぼ1秒間隔でボールが跳ねるように指していく。
こん、こん、こん・・・
「タクトを動かしている間に部屋番号を念じますので、それを感じとってください。各フロアごとに客室は10室、金貨のある部屋は1室のみです。質問はありますか」
老夫婦の旦那の方が挙手した。
「ここにいる招待客の誰かとあんたが、前もって通じていればとんだ茶番ではないかの?」
もっともな疑問だと、俺は共感した。
「ごもっともですわ。しかしご安心ください。それはあり得ません。失礼ながらあなた方の住んでいる世界と私共の世界との接点はないのです。要は、当てればよいだけの事。自分の幸福だけを考えればよいのです」
俺は豪華絢爛な天井を見上げ、足元のペルシャ絨毯の毛ざわりを確かめ、壁にかかったサルバドール・ダリの絵画を眺めた。
ここまで来て、何の文句を言う必要がある? 充分に楽しませてもらっているし、十分の一の確率だが、富はすぐそこにあるのだ。
「あんたに賛成だな」
俺は呟いた。女は優しい一瞥をくれた。
「ありがとうございます」
「テレパシーテストとやらを初めてくれ」
「かしこまりました。順番はくじ引きで決めます」
ディラーはシャッフルをして、テーブルにカードを並べた。
みんなの手が伸びて、伏せられたカードを持っていく。
ブラックジャックのように手札を覗くと、クラブの4だった。4番目だ。
トップバッターは三十歳くらいの痩せた女だった。
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