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「始まる前にひとこと」 それまで黙っていたホーキンズ金田がカメラレンズの放列を指さした。「みなさんの様子はあらゆるアングルから撮影され、リアルタイムでモニタに映ります」  いつの間にか撮影クルーたちが機器を操作していた。  かくしてテレパシーテストが開始されたのである。  三十女がテーブル席に座った。 「何階の部屋をご希望ですか」  ディラーがたずねる。 「10階を」 「かしこまりました。では、10階にあるお宝部屋番号を念じます。タクトの動きにご注意を」  我々はギャラリー席に移動して、壁のモニタを眺める。厳粛な雰囲気になり、しんと静まり返った。  こん、こん、こん・・・  タクトの先端がカードを叩く。  被験者の女がムムムとうなりながらタクトの動きを凝視しているが、閃いた様子は見受けられない。二分くらいが経過しただろうか。 「あの、わかりません。カンでもいいですか」 降参したのか、女は立ち上がった。ディラーが微笑んだ。 「カンもOKです」 「ダイヤの3に決めました」 「はい。ダイヤの3ですね?」  タキシードの女はすっとダイヤの3を抜き取るとギャラーに提示した。  部屋の隅で待機していたボーイが、三十女に付き添って室外へ消えた。  二番目のプレイヤーは、チェック柄シャツにジーパンのゲームオタク系の若い男だった。ベテランゲーマーのような油断のない目つきで女をディラーで観察している。彼は7階を希望した。クラブのカードがテーブルに広がり、タクトの先端が移動していく。タクトが三往復すると、ゲームオタクはふっと息を漏らした。 「なんだ、簡単じゃん。わかったよ・・・お宝の部屋はクラブの9、つまり9号室だ」  部屋の隅で待機していたボーイがゲームオタクに付き添って室外に消えた。  三番目のプレイヤーは老夫婦だった。ふたりはモソモソと揉めている。4階フロアにするか最上階の13階にするか決まっていないようだ。  ホーキンズ金田が苦笑いしながら、順番をあとにすることを提案した。老夫婦は快く了解したので、順番は俺に繰り上がった。 「おれは4階を」 「かしこまりました」  ディラーは俺から目をそらし、無造作にカードを配った。  ハートのAエースからキングまで13枚。  ヒントはタクトの動きか。だが、タクトの先端は一定のリズムを刻みながら、カードの上を移動していくだけ。不規則になることはない。まさに指揮棒の動きだ。俺は、ディラ―の口元を見つめた。唇が数字の形にかすかに動くのではないかと考えたのだ。  しかしポーカーフェイスのままピクリともしない。心に話しかける声も聞こえない。  もう一度、タクトとハートマークを凝視する。変化の予兆すらつかめなかった。  お手上げか。その時、ふとある考えが浮かんだ。本当はどの番号を言っても当たりなのではないか。番号を言った瞬間、各フロアの担当者が部屋の中に金貨を置きにいく。客室に向かうまでのタイムラグを利用するわけだ。客を最初に脅しておいて、実はちゃんとサプライズを用意しておく。ありそうな手口だと思った。 「よし、2号室だ」  俺はテキトーに答えた。  タキシードの女は心外そうに眼を大きくした。 「本当にわかったのですか。納得したご様子ではありませんけど」 「いいや、大丈夫だ。これで決まりだよ」 「そうですか。ボーイが戻って来るまで、ギャラリーでお待ちください」  俺はテーブルから離れた。  俺の次はドーナツサングラスにショートパンツ姿の若い女だった。神妙な顔つきで5階フロアと、告げる。  俺はモニタに映るスペードのAからKまでを見つめた。  8かなあ。いや1?   女のつぶやきが聞こえる。  うーん、やっぱ、10に決めたよ。  その子は10に決定した。  その時、モニタの画面が切り替わって、各フロアの画像が映しだされた。  ダイヤの3を、10階の3号室を選んだ三十女が映っている。彼女を迎えたのは金貨の箱ではなく、床をのたくりまわる毒蛇の大群だった。物凄い悲鳴が響いた。  画像が切り替わった。  やったー!  クラブの9を、7階の9号室を選んだゲームオタクが両手を振り回している。彼を迎えたのは、重厚な化粧箱に入ったでかい金貨だった。  今度は俺が部屋に案内される番になった。ドーナツサングラスの女の子も途中までエレベーターが一緒だった。別れ際に互いにエールを交わした。 「幸運を」 「幸運を」  2号室の前まで来ると、案内してくれたボーイはいなくなった。  心臓がぢんぢん震えている。ヤバい部屋だったらどうしよう。  覚悟を決めて、手渡されたカードキーを差し込むと、黴臭い匂いが鼻をついた。  嫌な予感がしたが、部屋は広く明るかった。窓から太陽が差し込み、遠くに碧い海が見渡せた。  キングサイズのベッド、高級そうなサイドテーブル、応接セット。  一見すると、妙な仕掛けはなさそうだ。  俺はベッドに腰かけた。目の前に100インチのテレビモニタがあり、ナンバー当てが放映中だった。  老夫婦が映っている。悲鳴が聞こえた。  次は厚手コートの男。彼は12階を選択した。喜びの雄たけびだ。あとの客たちの動向も気になったので、続きに見とれた。  結果、金貨をゲットしたのは、11階希望者の母と幼い子の親子、厚手コートの男、ゲームオタクの三組だけだった。あとの人たちはハズレ。  俺はとりあえずシャワーを浴びて、一休みすることにした。  あることに気がつた。失敗者はみんな悲鳴を上げているのに、俺はまだそんな憂き目にあっていない。ますます嫌な予感がした。          
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