祖母からの手紙

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祖母からの手紙

数年前の話です。 私の母方の祖母が、百歳の誕生日を迎えて、お祝いの会が開かれることになりました。私の兄弟でもプレゼントを用意しようということになり、私が選んで宅配便で送ることになりました。 何をプレゼントしたら喜んで貰えるのか、あれこれ考えましたが、まったく思い浮かびません。そこで、近くの家電量販店に行って、売場を回っていたら、CDラジカセのコーナーで年配のおばあさんが販売員の方に、 「操作の簡単なの下さい。」 と言っていました。そう言えば、私の祖母も演歌が大好きで、テレビの歌番組をとても楽しみに見ていました。特に「岸壁の母」がお気に入りで、よく口ずさんでいたのを覚えています。 それで私は、比較的操作の簡単なCDラジカセを購入しました。さらにCDショップを何軒か廻って、「岸壁の母」が入ったCDと、演歌のCDを数枚購入し、それらを1箱にまとめて宅配便で送りました。 (操作できるかな) (気に入ってくれるかな) など色々と心配ではありましたが、翌日伯父から電話があり、 「プレゼントありがとう。おばあちゃん、凄く喜んでたよ。」 とのことだったので、ひとまず安心しました。 それから数日後、郵便受けに白い封筒が入っていて、差出人をみると、なんと祖母からの手紙でした。百歳になった祖母が、封筒の宛名(私の住所と名前)まできちんと書いて、送ってくれた手紙です。 『昨日は全く思いがけずお心のこもったと言いますか、私の日頃をよく御存じと思える程にぴったりと、御存じと思える私の一番ほしかった物を御送りいただき、百才にしてやっととどいた念願が夢かと、しわくちゃのほほを幾度ひねっても嬉しい「夢」はさめず、今日になって「ウソ」だったらどうしようと思って起きて来たら、「母は来ました今日も来た」と私の気持ちのよくわかる息子がもうかけてくれていました。』 祖母が書いたそのままの文章です。ボールペンで書いてありましたが、きちんと整ったきれいな文字でしっかりと書いてありました。便箋は2枚で、途中私の家族や兄弟への気遣いのお話があり、後半部分をご紹介致します。 『ほんとうにほんとうに有難う。三度の御飯より大好きな事をなんであなたが、さっぱりこないあなたが、どうしてわかるのか全く「神わざ」ですね。これからの私の人生に百年の「苦労」をこれでさっぱり「ながして」毎日私の一生は全くもってよい一生だったなと毎日感謝して嬉しくたのしく生きて参ります。有難う、有難う、有難う。』 「曲をながす」と「苦労をながす」を掛け合わせるなど、お話の上手だった祖母のお得意のオチまであって、流石でした。 そして最後まで力強い文章に驚くばかりだったのです。 『百才になって嬉しい事が次々と起り今年もよい年と心から嬉しく思って居ります。』 以上が、百歳を迎えた祖母が書いた実際の手紙になります。 祖母は、寝たきりになっても毎日必ずCDを聞いていたそうで、その後亡くなりました。あまり会いに行けませんでしたが、最後に祖母に喜んで貰えて私も嬉しかったです。
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