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「君も入部希望?」
少し膝を屈めて、倉木さんはあたしに聞いてくる。間近で見ても、やっぱ似てる。やばい、どうしよ。けいちゃん、ドキってしちゃった。怒る? 怒んないよね。
「いえ、あのあたしは見学の付き添いで…」
「あ、そうなんだ。名前は?」
「遠藤千帆です」
「遠藤さん。倉木恵吾です、よろしくね」
いやだから、ね?って語尾のところで微笑みかけるの、けいちゃん思い出すから、やめて欲しいって言うか…名前まで似てる、って何の意地悪…。
「この中暑い? 空調入れてないんだけど」
「え、いや。大丈夫ですよ?」
「そう? 遠藤さん、顔赤いから」
「初めての場所だから緊張してて…」
そう言ってあたしは俯いた。あんまり顔見ないようにしよう。にしても、びっくりした。世の中には、自分と似た顔が3人いるって言うから、けいちゃんに似てる人がいてもおかしくはないんだけど…。
岩城先輩と萌ちゃんは、早速持ってきた楽器を組み立て始めてる。どうしよう、帰りたい。でも、今帰ったら、何一つ見学してないことになるよね。
いかにも手持ち無沙汰なあたしに同情してか、倉木さんは部のことをいろいろ説明し始めた。活動日は特にはっきり設けてないらしい。みんな自分の開いてる日に、練習しに来てるそうだ。金曜日はセッションデーとして、決めた曲をその時居合わせた人たちで奏でたりするけど、基本出入り自由の緩いサークルなんだそうだ。
「即興命で、何でもアリのジャズサーっぽいでしょ? 部員も基本、自由でマイペースな奴が多いんだ。遠藤さん、楽器何か出来る?」
「えと、昔ピアノ…」
「ちょっと弾いてみない?」
「え。ジャズ・ピアノなんて弾いたことないですし、無理ですっ」
「そんな難しく考えなくて平気だよ」
そう言って倉木さんはあたしを、部室の奥のピアノの前まで誘導する。当たりソフトなのに、有無を言わさない強引なとこも、けいちゃんぽいなあ。
グランドピアノの蓋を倉木さんがそうっと開けると、綺麗な鍵盤が現れた。
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