6/6
399人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
「君も入部希望?」 少し膝を屈めて、倉木さんはあたしに聞いてくる。間近で見ても、やっぱ似てる。やばい、どうしよ。けいちゃん、ドキってしちゃった。怒る? 怒んないよね。 「いえ、あのあたしは見学の付き添いで…」 「あ、そうなんだ。名前は?」 「遠藤千帆です」 「遠藤さん。倉木恵吾です、よろしくね」 いやだから、ね?って語尾のところで微笑みかけるの、けいちゃん思い出すから、やめて欲しいって言うか…名前まで似てる、って何の意地悪…。 「この中暑い? 空調入れてないんだけど」 「え、いや。大丈夫ですよ?」 「そう? 遠藤さん、顔赤いから」 「初めての場所だから緊張してて…」 そう言ってあたしは俯いた。あんまり顔見ないようにしよう。にしても、びっくりした。世の中には、自分と似た顔が3人いるって言うから、けいちゃんに似てる人がいてもおかしくはないんだけど…。 岩城先輩と萌ちゃんは、早速持ってきた楽器を組み立て始めてる。どうしよう、帰りたい。でも、今帰ったら、何一つ見学してないことになるよね。 いかにも手持ち無沙汰なあたしに同情してか、倉木さんは部のことをいろいろ説明し始めた。活動日は特にはっきり設けてないらしい。みんな自分の開いてる日に、練習しに来てるそうだ。金曜日はセッションデーとして、決めた曲をその時居合わせた人たちで奏でたりするけど、基本出入り自由の緩いサークルなんだそうだ。 「即興命で、何でもアリのジャズサーっぽいでしょ? 部員も基本、自由でマイペースな奴が多いんだ。遠藤さん、楽器何か出来る?」 「えと、昔ピアノ…」 「ちょっと弾いてみない?」 「え。ジャズ・ピアノなんて弾いたことないですし、無理ですっ」 「そんな難しく考えなくて平気だよ」 そう言って倉木さんはあたしを、部室の奥のピアノの前まで誘導する。当たりソフトなのに、有無を言わさない強引なとこも、けいちゃんぽいなあ。 グランドピアノの蓋を倉木さんがそうっと開けると、綺麗な鍵盤が現れた。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!