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「いいの、やらない」
けいちゃんの腕に腕を絡めて、あたしはきっぱりと言った。けいちゃんはなにか言いたげに、口を開きかけた時、突然、店内放送で、タイムセールのアナウンスがけたたましくがなり立てる。
「ただいまから、お惣菜コーナー30%オフになります」
ピクッ。30%オフ。無視出来ない魅惑の響きにけいちゃんの手を取って、奥の惣菜コーナーへ急いだ。
「わあ、これもこれも値引きになってる。何がいいかなあ」
「俺、エビの唐揚げがいいな」
「…けいちゃん意外に渋いとこ、攻めるよね」
「あ、待って。春巻きもうまそう、迷う。こういう時は自分じゃなかなか作らないもの、って決めてるの」
手のひらサイズのパックを両手に取って、けいちゃんは真剣に眺めてる。なんか、可愛いな、けいちゃん。
けいちゃんの手からささっと、パックをふたつとも奪った。
「じゃあ、両方買って半分こしようよ」
「いいね」
ってけいちゃんが笑ってくれたから、あたしはそのままそれをかごに放り込んだ。
ふたりだから、出来ること。ふたりで楽しめること。あたしが何より大切なのは、けいちゃんとの時間だから。
けいちゃんとの結婚に後悔なんてしてない。けど、普通の18才の女の子でいられない自分に、ちょっとだけ寂しさもあった。そんなあたしに、けいちゃんは気づいてたんだよね。
買ってきたお惣菜と温め直したご飯、即効で作ったお味噌汁。簡単な夕飯を済ませて、お風呂のあとは、明日はお休みってことで、ふたりでリビングのソファで、テレビ観ながらまったりしてた。
けいちゃんの両脚の間にあたしのお尻を挟まれて、けいちゃんの腕があたしの肩から胸元に掛けて絡みつく。
あたしの項に顔を埋めて、けいちゃんはくすっと笑った。
「おんなじシャンプーとボディソープ使ってるのに、やっぱり俺と違うよね、千帆、いい匂い」
ちょうどあたしの髪の毛先が踊る辺りに、けいちゃんの高い鼻が当たる。
「やあだ、けいちゃん、匂いかがないで」
「だって甘くていい匂いなんだもん。だめ?」
「…恥ずかしい…」
「じゃ、もっと恥ずかしいことする?」
あ、また抱かれるのかな…。一緒に暮らし始めてからは3日とあけずに繰り返される夫婦の営み。甘い期待にあたしの胸がキュンとなった時だった。ローテーブルの上にあった、あたしのスマホにラインの通知音が響いた。
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