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「遠藤さん、遠藤さん」 教室で後ろから背中をつつかれて、ハッとなった――遠藤さんて、あたしじゃん。 「あ、は、はいっ」 勢い良く振り返って返事をすると、あたしを呼んでた女の子がくすっと笑った。サラサラの茶色のストレートの髪から、いい匂いがふわりと香った。あ、メイクもばっちりしてる。 彼女は確か、北川さん。同じ教育学部の学生だ。 「遠藤さんで良かったよね? 間違ったかと思っちゃった」 「ご、ごめんなさい…ぼんやりしてて」 遠藤、って呼ばれるの、未だに慣れない。新学期始まって、いろんな提出物書いたけど、それも尽く「春日」って書きそうになって、或いは書いちゃって、けいちゃんの持ってる訂正用のシャチハタと修正テープが大活躍。 「遠藤さん、おもしろーい。ねえねえ、名前なんだっけ」 まだ講義の始まらない教室で、北川さんは身を乗り出して聞いてくる。 「あ、えと千帆」 「千帆ちゃんて呼んでいい?」 「うん。その方が慣れてていい」 「あたしのことも、萌でいいからね」 なんか、仲良くなれそう。この講義のあとがお昼だったから、一緒にランチする約束も出来た。 大学は広くって、食堂も4つくらいある。いちばん教育学部のメーンの校舎の近くの食堂で、食べることにした。本格的に学校が始まって1週間くらい経つけど、いつもひとりでランチしてたから嬉しい。 「あたし、日替わりのB定にする。千帆ちゃんは?」 「うーんと…あたしはA定」 A定は茄子と鶏のみぞれ煮ときんぴらとお味噌汁。…うん、美味しい。自分でゴハン作るようになると、なんか外で食べるゴハンも色々考えちゃうなあ。これ、どうやって味付けしてるんだろ、とか、けいちゃんも好きそうかも、とか。 他愛無い話をしながら食べてた時だった。 「あれ、北川」
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