ジブリに寄せて

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 淡い水色の空を、破いた紙に似た雲が流れていく。海沿いの道を歩く一人の少女は白くひらひらした帽子を右手で押さえながら歩いていた。白いワンピースに重ねた黄色のブラウスから伸びる細い腕には尺骨が色っぽく浮きでている。方に届かない黒い髪は海風の流れに、優しく揺れている。意識していなかった波音がやけに耳に、響く。心地よい音が心臓の奥の奥のほうをくすぐり少女の唇が緩む。   街に着いた。均等に並べられたレンガ敷きの道を歩く。パンの匂いがする。少女は音を立てて開くステンドガラスの扉へ入っていった。紙の匂い。狭い店内には少女と、メガネをかけた老父と、本、本、本。棚に収まった本に少女の長い指が伸びた。豪華な装丁のそれを開きページを追っている少女と、本を重ねている老父と、本、本、本。少女の唇が開いた。老父が顔を上げ、少女の目を見る。その老父の手に幾らかの金を置き、本を渡す。老父は少し笑いかけ本を返す。少女が頭を下げた。上品な仕草だった。ステンドガラスの向こうの日の射す世界へと少女が帰る。その肌が一瞬輝いた気がした。
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