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「銀次くんってゲイなの?」
「いや」
「じゃ何で?」
「珠希と一緒だよ。珠希だって付き合える男はコウヨウだけなんだろ」
「……1年も続くと揺らいでくるけどね」
「そーだな、男と1年続いてんならそりゃもうゲイかそっち寄りのバイセクシャルだ」
「さっきの女の子たちにはピクリともこなかった」
「俺も」
「人のものだからかな?」
「さあなあ」
抱き寄せた肩にもう一方の腕も回して、真っ暗な道の真ん中で珠希を抱きしめる。そして珠希は街灯に照らされた銀次の顔を見上げながら、(変な人だけど、やっぱり顔だけは好きだなあ)と思いつつ、ひたいへのキスをおとなしく受け入れた。この1日は受動的でのんびりとしていたが、これまでになく激動であった。昨日の昼までの自分に、明日の夜には天山銀次にキスをされているなどと伝えたところで、到底信じられるわけがない。
結局高鷹からは電話も来ず、ひそやかに決めていた「刻限」を過ぎても何の連絡もなかった。だからと言うわけではないが、キスをされてから2時間後には彼のベッドの中で裸になっていた。自分を好きだと言う男の部屋に招かれ、同じベッドに眠った時点でなお、「何にもしない」という言葉の効力が保たれると信じているほど、自分はウブではない。高鷹と同室になって、特に迷いもなく互いの肉体によってその性欲を発散させた身だ。そのあとに彼を好きになったが、もしも好きにならなくとも、淫らな関係だけは続けていたに違いない。
……恋をしてしまったから、彼にとらわれ、溺れている。しかし1年という月日は、彼にとっては長過ぎたのだろうか。銀次が果て、深いキスをしながら、珠希は目尻に溜まった涙を彼に悟られぬようひそやかに拭った。自分らしくない1日が、静かに更けていった。
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