0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
チョコは何処へ…Q
…2月14日…バレンタインデー…
世の中のモテない男子諸君がソワソワし、心躍る女子たちは特定の想いを寄せる男子たちに、これでもかというほど…チョコレートを贈呈する…非日常的恋愛要素イベント。
それは、義理か本命か…。渡すことに意味がある…?それを煩わしく思う奴…全く縁のない奴…蚊帳の外の男子たちの気持ちとは裏腹に…そのイベントは進行していく…。
『これはこれは…何かが起こりそうな…探偵日和…である!』
そんな日に起こった事件…。見事に解決してみせみましょう!それが、僕の使命だから…。。
『イケメン男子チョコレート消失事件』
…自己紹介が遅れました…。私の名前は瀬戸際ロマン(せとぎわ ろまん) 。私が通う小学校で起こる数々の事件を解決に導いてきた…何を隠そう…天才名探偵である…。
今日も自分のデスクで、ヤク◯トにストローを差し込み、上品にチューチューしていると…その悲鳴は聞こえてきた…。
「キャァァァァ…」
午後の昼下がり…昼休みのチャイムが鳴ろうかというとき…その事件は起きた…。僕はその女子の悲鳴の叫びというか…驚嘆の大声のほうへ、駆け出していった…。
…現場に到着すると、複数の女子がイケメンスポーツ男子を取り囲んでいた…。下駄箱…記者会見…だろうか…?
「どうして…なんで、下駄箱に入れといたのに…!」
「私なんか、机の中に手紙と一緒に入れといたのに…!」
「私はロッカーに…忍ばせて…。折角、早起きしたのに…!」
…その困惑するイケメンスポーツ男子と女子たちの言葉を聞き取るに…彼がチョコレートを視認する前に、女子たちの無造作に我が儘に置かれたチョコレートたちは消えてしまったという…。
う…むむ…。。
これは、まず消失現場を捜査することが大切かな…!
イケメンの彼の下駄箱を調べてみる…。彼の年季の入ったスポーツシューズがあるだけで、他に怪しい点はないな…上履きと下履きを仕切る板が少し斜めになってるくらい…まぁ、急いで盗んだのかな…。
…キーンコーンカーンコーン…昼休みの終わりを告げる音鐘か…。調査はまたにするか…と、教室に戻る…。
あまり、気にしていないイケメン男子と納得のいっていない女子たちも…教室へと戻る…。
一足先に教室へと戻った、ロマンはイケメン男子の机の中をすかさず調査する…。ノートが落ちている…。まさぐった時に、犯人が落として、元に戻すのを忘れただけであろう…。
ゲシッ…!
「ちょっと…何してんのよ!ロマン!!」
イケメンファンの女子に後ろから蹴られた…。
「あっ…ロマン…今回の調査はもういいよ!犯人探しなんてするなって…。」
足を引きずりながら、少し遅れてきたイケメン男子は諭してくるが…僕は一度決めた調査はやめないし…謎を解くまでは諦めない性分…。
「ロマン…あんた絶対に犯人見つけなさいよ…!とっちめてやるんだから…!」
…ふんっ…女子とはなぜこうも調子良く…。。
先生が来るまでに、最後に…イケメンロッカーを調査…。あっ…意外と整理整頓がてきているじゃないか…こりゃ、モテるわな…。んっ…これは…!
ガララッ…
先生が教室に入ってきた…とりあえず調査はここまでかな…。後は…推理してみるか…。
そう言って、彼はハンチング帽と虫眼鏡をマイデスクに置いた…。
彼の思考は凄まじく駆け巡る…。午前中の犯行…忙しさを残す現場…大量のチョコレートの隠し場所…1時限目の体育…見学者…遅刻…病院…そして、手紙…。。
……幾つにもほどけた糸が…一本に結集し…真実への糸通しへと…向かっていく…。
バシッ…!
はっ…と僕は起き上がった…。
先生の怒りの爆弾が投下されたようだ…。
脳をフル回転させて、推理を繋いでいくと、急激に眠くなってくる…。
「ロマンくん…後で職員室に来なさい…!」
教室中に笑い声が溢れるが…僕は見逃さなかった…唯一…下向き加減で笑っていなかった犯人の姿を…。
……キーンコーンカーンコーン…。
全授業が終了し…放課後…。
ここでも、女子たちの揺るぎない…したたかな行動は多数…目撃できるだろう。
日直が連絡事項を言い終えると…
「…皆さん…ちょっと待って下さい…。」
彼は手を高々と挙げながら、歩みゆっくりと、教卓の前に移動する…。
先生もそれを静かに見守る…。彼の一番の理解者でもある…。やり易い…。
「本日…発生した、バレンタインチョコレート消失事件の真相を…話していきたいと思います…。」
先生は、楽しそうに見守る…。一部の男子たちは、なんだそれーっ…どうでもいいよー…っと、早く帰りたい衝動を抑えきれない。女子の大半は、犯人は誰なのよー…早く教えなさいよー…っと、口々に煽ってくる…。
コホンッ…僕は仕切り直して…推理を披露する…。
「それでは、まず犯行時刻ですが、朝の登校時間から1時限目の体育の授業が終わるまでの時間と推測されます…。被害にあった…池面君のチョコレートの置かれた場所へ、犯人は焦りはしたものの、スムーズに移動し、回収している様が見てとれます…。位置を把握している人物…犯人はクラスの中にいると予想していいでしょう…。」
「…人目があってはならない…登校時間の混雑に紛れて行うのは…タイミングが悪ければ、作業中の女子たちと鉢合わせする可能性がある…だから、犯人は、クラス全員が外のグラウンドに出ていた体育の授業中に犯行に及びました…。」
だから、犯人は誰なのよー!女子たちの叫びを無視して、僕は続ける…。
「…一時限目に体育だったのはこのクラスだけでした…他のクラスは先生の監視下に居るため、犯行は不可能…。保健の先生にも聞いたところ、その時間に来室した生徒はいなかったようです。」
「そして…池面君…あなたは溢れんばかりのチョコレートを朝の登校時刻に確認できなかった…。それは、なぜか?」
ロマンは池面君の足を指差す…。
「彼は、週末のサッカーの試合で足を怪我してしまった…今朝、病院に寄って来たため、登校が遅れ、そのまま体育の授業を見学していたのです。そうですね?」
「うん…そうだよ…。」
池面君は素直に答えてくれた。
先生は満面の笑みで、首を縦に振っている…。ほっとこう。。
「…犯行ができた者…それは、体育の授業を見学していた人だけです!!」
…クラス中の生徒がまじまじと犯人らしき生徒を見回す…。
「今日、体育の授業を休んだ生徒…3名に絞られます…。池面君は足を怪我していますし、自分でチョコを隠して、騒ぎを起こすような人格者ではないので、外します…。」
当たり前でしょ…!消しゴムが飛んでくる…。
先生が立ち上がり…両腕を大きく上下させ、場をなだめる…。先生…ありがとう。
ロマンは改めて…
「…貧保君と弱田さん…。」
名指しされた二人はビクリとする…。
「しかし…弱田さんは女子です…。他の女子たちを貶めるために、やったのかと最初は思いましたが、それは逆に目立つ行為…。そして、彼女には…いいえ、それは後で話してもらいましょう…。」
「残るは貧保君になります…。すみませんが、今日になって急に持参してきた、そのリュックサックの中身を拝見させて頂いてもよろしいでしょうか…?」
…貧保君は、ぶるぶる小刻みに震えながら、リュックサックを手で守っている…。
「それは駄目ね…ロマン君…個人情報は確定的な証拠が出されるまでは、流出NGです!」
先生が立ちはだかる…。愉快な表情で、サラッとあしらうその姿に、このババ…と思うが、まだ28歳独身…。
「…仕方ありませんね…。決定的な証拠…は出せませんので…。」
「貧保君…!あなたのポケットから滑り落ちたその手紙は何ですか?」
ロマンは問いただす…
貧保君はあたふたしながら、机下辺りを見回す…が落ちているはずはなく…。
次に、ポケットの中の手紙をおもむろに確認する…わしゃわしゃと…。
パラリ…。
手紙が本当に落ちてきた…。
「…貧保君…すみません…嘘をつきました…。」
貧保君は唖然としながら…肩を落とした…。
先生は感心したように、その手紙を遠くから見つめている…。
「…池面君のロッカーの中に、手紙だけが奥の方に残されていました…。あなたはチョコだけが欲しかった…だから、取り出した時に落ちた手紙をロッカーの中に戻しましたね…。そして、チョコを全て確認すると、池面君宛の手紙が幾つもあることに気づき…それだけは池面君に返すつもりだった…そうですね?」
ガダンッ…!
「もぉ、いいだろ…!ロマン…!その辺で!」
池面君が、少し剣幕に喰い止めにかかる…。
「…いいえ…まだ終わってません…今後のクラスの絆を考えると、僕は全ての真相を話す他にありません…。」
「先生っ…!止めて下さい…!」
…先生は、首を横に振る…。先ほどの職員室呼び出しの時に、理解力抜群の先生には全ての真相を事細かに伝え済みだ…。
池面君は悔しそうに…静かに、机に項垂れる…。
「…池面君…あなたは犯人探しに興味はありませんよね…だって、あなたが貧保君にチョコを差し上げたのだから…。」
えぇーっ!!!??
女子たちの驚きの言葉がけたたましく響き渡る…。
「…始めから犯人なんかはいませんでした…。これは、池面君から貧保君へのプレゼントだったわけですから…。まぁ、まさか全部キレイに持っていくとは思ってもなかったでしょうが…。」
池面君はグッと拳を握りしめ、貧保君はプルプル震えている…。先生は、そんな貧保君の肩に手を置き、こちらに続けなさいの合図を送ってくる。
「…貧保君が、体育の授業を見学していると、遅れてやってきた池面君が…話し掛けてきた…。こんな感じに…」
『毎年、バレンタインデーの日は困るんだよなぁ…食べ切れないぐらいのチョコ…持って帰るのも大変だし、甘いものもあまり好きじゃないし…ははっ…。あれ、今日は何で見学なの?俺は試合で足を挫いちゃってさぁ…。』
『……昨日、腐りかけたパンを食べちゃったんだ…。。お腹を壊したみたいでさ…。。…家で、兄弟がお腹を空かせているんだ…お菓子を食べたいって…泣いているんだ毎日…。ぐっ…うっ…うっ…』
『えっ…そうなのか…分かった!俺の貰ったチョコあげるよ!多分、朝から下駄箱なんかは渋滞していたんじゃないかなぁ…。』
『…えっ…あ、ありがとう!!』
「…貧保君は直ぐ様、チョコを回収しに走ったんでしょう…。嬉しさのあまり…。おそらく、本来であれば、チョコではなく、給食の残りや残飯などをリュックに入れて、持ち帰るつもりだったんでしょう…。」
「…ごめんなさい…気づいてあげられなくて…。。ごめんね…。」
先生は、貧保君の背中を擦りながら、後悔を訴える…。
「うっ…うっ…えぐっ…」
貧保君は泣いていた…。そんな姿を見て、僕は罪悪感を感じてしまう…。でも、最後まで続けよう…ある意味ハッピーエンドはここからだから…!
「弱田さん…貧保君に何か渡したいものがあるんじゃないでしょうか…こんなことになってしまって、渡すタイミングを逃したら、僕は一生眠れませんからね…。お願いします…。」
…薄く頷き、覚悟を決めた…弱田さんは、ゆっくりと立ち上がり、涙を浮かべながら、貧保君に歩み寄っていく…。
「…貧保君…これ…。」
彼女は可愛くリボンがつけられ、包装された固形の箱を彼の前に…
彼はぐしゃぐしゃになった顔をあげる…。
「バレンタインチョコだよ…私、一人っ子だから、貧保君の兄弟の話が楽しくて…いつも待ち遠しいの…これからもよろしくね!」
貧保君は…声を大きくあげ、感謝しながら…謝った…。
クラス全員の鼻をすする音が聞こえる…。
ふぅ…事件の真相は解明したが、なんだか腑に落ちないと感じるのは僕だけだろうか…。
先生の親指を大きく突き立てた拳が気になってしょうがなかった…。
……… 下校時……
僕は下駄箱の中を見回す…。
あっ…!チョコではない…。
依頼の手紙だ…。それ以外は、何もなかった…。
淡い希望はもつものじゃないな…。
信用できるのは、己の推理で到達した真実のみ…。
ガシッ…!
後ろから肩を掴まれる…。
「よぉ…名探偵君!今日もナイスな推理だったねー!我がクラスの結束は更に深まった気がするよー!授業中に寝ることは決して許されるわけではないけど、これは先生からのご褒美だ…!受け取りなさい!!」
『キット…カット…!』
僕はこれからも…きっと…葛藤するのだろう…。
【完】
最初のコメントを投稿しよう!