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「ねーえ。ひろ君さぼって海に行ったこと後悔してるの?」
「うーん……」
それは違う気がした。あの日見た海は今でも一番きれいだったと言い切れる。町口の笑顔もきらきらきらきらしていてまぶしかった。
「ひろ君が後悔してるのは、怒られたことでしょ、うまく立ち回れなかったことでしょ。私たちもう大学生だよ。高校生じゃないよ。お互い一人暮らしだし、家族に心配かけることもないよ、大丈夫だよ」
部屋の方から動かず、さおりは洗面所に声をかける。宏文は鏡の中の自分を見つめて、確かにあの頃よりは大人だ、と納得する。
「こんな晴れた日にさー、黙々と講義受ける気?」
何しに大学に行ってるんだと苦笑するが、宏文は自身がだいぶさぼる方へと気持ちが傾いているのに気が付いた。
じゃあ行くか、と切り出そうとしたところで、さおりが言う。
「町口さんとのさぼりの思い出を上書きしたいなー」
甘えるような口調だった。
だけど宏文はため息を飲み込んだ。
あの思い出になにも上書きしたくなかった。そんなことされるのはさおりであろうと嫌だった。
「さぼりはダメだ。ピクニックは日曜日に行こう。な!」
宏文は洗面所から大声を出した。
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