さぼり日和

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高校2年の6月だった。検定試験の直前で、毎日朝補習や放課後の補習があって、登校は早く帰宅は遅い日が続いていた。先生たちもクラスメイトもぴりぴりしていて、その空気を宏文が持ち帰るものだから家族もなんだか殺気立っていた。 早く検定が終わればいいのにと思ったが、何度模擬試験を受けても合格点にわずかに足りないので検定の日が来るのが怖いとも感じていた。 嫌だな、と思ってたせいでその日は遅刻寸前だった。もう上りきった太陽が首筋をじりじりと焼き、蝉の声がうるさいくらいだった。アスファルトと草のにおい。重たいカバンを背負って、タオルで顔の汗を拭きながら、いやいやでも無理やり歩を進ませ学校に向かっていた。 「香川君。おーい、香川君!」 背後から声をかけられて、宏文はおどろきながら振り返った。長い黒髪を翻し、駆け寄ってきたのはクラスメイトの町口あやだった。 「町口さん」 「おはよう、香川君」 にこにこと町口は言った。おはよう、と宏文は答える。町口がこんな時間に登校しているのは意外だった。町口あやは真面目な優等生だ。誰よりも早く席に着くし、最後まで残って先生に質問している。その町口が遅刻寸前の時間に通学路にいるなんて。 「珍しいね、町口さん。遅刻しそうだよ」
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