さぼり日和

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それは魅惑的な、だけど真面目な宏文にとっては悪魔のささやきだった。心臓がどきどきとうるさく鳴りだしている。ダメだよ、と言いたがる脳みそ。だけど町口のきれいな澄んだ目を見つめると、口が勝手に動いた。 「そうだね、学校、行くのやめよう!」 当時の宏文も町口も、連絡なしに学校に行かないとちょっとした騒ぎになるということは知っていたはずだったのに。勉強疲れでそこまで頭が回らなかったのか、それともわかっていてわざと気づいていないふりをしたのか―― ともかく、二人は学校をさぼることにした。 それまでほとんど会話をしたことがなかったが、そんなことは互いに気にしていなかった。 「こんないい天気なのに学校に行こうって発想がそもそも馬鹿だと思わない?」 来た道をたどる。左右に生えた名も知らない草が風が吹くたびさわさわ揺れた。雲一つない晴天で、町口の言うとおり、こんな日に学校で黙々と授業をうけるなんてもったいないと宏文も思った。学校に行く代わりにどうするのが有意義なのか。宏文は一瞬だけ考えた。 「こんな日は海にでも行きたい」 「いいねえそれ。香川君、海に行こう!」 町口は目を輝かせて同意した。
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