さぼり日和

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海に囲まれた島だ。いろんな名前の海岸がある。その中でも町口の一番気に入ってるところを選び、二人はそこへ向かうことにした。 降り注ぐシャワーのような蝉の声や、ちゅんちゅん言う鳥の声が全然うるさく感じなかった。照りつける日差しはやっぱり暑かったし、宏文も町口も汗をかいていたが、それでも妙な倦怠感は失せていて、すっきりした気持ちで二人は歩いた。 今まで全くと言っていいほど接点のなかった二人だったが、好きなアーティストが同じだったり、読んでる漫画が同じだったり。意外と共通点があった。宏文の気のせいでなければ、共通点が見つかるたび、町口は嬉しそうだった。 何時間も歩いた。やっと『ワンジョビーチまであと1.5km』という立札が見えたときだった。町口のスマホが鳴った。町口も宏文も同時にぴたりと足を止め、二人は顔を見合わせた。町口の顔はこわばっていた。直前まで笑顔だったのにそうは思えないほどに。宏文の表情も同様だった。二人が沈黙している間も、カノンが鳴り響いている。 町口は小さく息を吸い込み、スカートのポケットからスマホを取り出した。 「……お母さんだ」 予想していたとはいえ、町口の言葉は宏文の肩にどしんと重たくのしかかった。
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