さぼり日和

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町口はまた息を小さく吸い、なにやらスマホを操作した。カノンが鳴りやんだので、電話を拒否したのだと宏文にもわかる。町口は無言でスマホの電源を落とした。宏文に口を挟ませる気のない毅然とした態度でスマホをポケットに入れなおす。 「今日は絶対、海見るって決めたから!」 子どもの勝手な決意がどれほど大人に心配をかけ、迷惑をかけ、困らせるか――それに気が付くのは後のことだった。そのとき宏文はただ、町口の勝気な笑顔になんだか全部大丈夫な気がして、絶対に海を見なきゃいけない気がしたのだ。 風に潮のにおいが混じるころ、宏文のスマホも鳴った。宏文は町口のまねをして父親からの着信を拒否し、電源を切った。その後はどちらからともなく手を繋ぎ、海を目指して歩いた。 やっと海岸についたとき、眼前に広がる真っ白な砂浜と海の青に、見慣れた景色なのに二人とも息を呑んだ。そうして顔を見合わせ、手をほどき、カバンをなげだし、スニーカーのまま波打ち際を目指して砂浜を駆けたのだ。
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