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さぼり日和
「講義さぼってピクニックに行こうよ」
甲斐田さおりが言い出したのは、五月のよく晴れた朝だった。ベランダに続く大きな窓のカーテンを開けたさおりはこちらを振り向いていたずらっぽく笑う。香川宏文はベッドの上で、日の光のまぶしさに目を細めながら、却下、と低い声で答えた。
「えー、どうしてよ。いいじゃん、たまにはさ!」
大股で歩み寄り、さおりはベッドに腰掛けた。
「こんなにいい天気だよ!」
「ピクニックは日曜日に行くもんだろ」
「日曜日はバイト詰めてるの。休日手当がつくからね!」
「それはわかるけど、だからって講義さぼって平日にピクニックに行くのは……」
宏文は渋った。彼は真面目な質なのだ。現在大学二年生。徐々にたるんでくる時期だが、宏文は一度も講義を休んだことがなかった。遅刻さえない。さおりは口を尖らせた。
「ひろ君って学校さぼったことないでしょう、今まで生きてきた中で」
どこか小ばかにするような口調に、宏文はむっとする。
「学校をさぼるのがいいことかのように言うなよ」
「いいことでしょう!」
さおりは両手を合わせ、目を見開いた。
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