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ほんのりと薄くファンデーションを塗って貰い、唇に淡いピンク色のキラキラしたグロスを差して貰い、和泉ちゃんに頑張れって応援され、不思議と勇気が沸いた。
町はハロウィン一色。お化けかぼちゃがあちこちに出没して、華やかさに花を添えていた。通りを行き交う大勢の人達は、みな浮足立って、そわそわ、わくわく、それぞれ思い思いのハロウィンを楽しんでいる様だった。
陽が短くなり、夕闇が駆け足で町を包み込んでいく。
和泉ちゃんと別れ、急いで家に帰り、彼を待つ準備に取り掛かった。
生まれて初めての女装に、心臓はドキドキしっぱなしで今にも飛び出してきそうになった。
大好きな彼に、ありのままの僕を見て欲しい。愛して欲しいと心から願いながら、全部服を脱ぎ捨てて、全裸になり、鏡の前に立った。
中心にある二つの性器に自然と視線が向いた。小さな陰茎と、固く口を閉じる蜜口。
親にでさえ気色悪いと言われ、手術をするように何度、迫られただろうか。彼と一緒に暮らす事を口実に家を飛び出して以降、親とは一切連絡を取り合っていない。
忙しい頼人が寝る暇を惜しんで無理してまでバイトをしているのは、高校の学費を払う為、生活する為。懸命に働いてくれている。
彼は、気色悪いこの体を見てどう思うのだろうーー
それでも好きでいてくれるかな。
計り知れない不安に今にも押し潰されそうになり、胸が苦しくなった。
あえて下着を身に付けず、着物ドレスをそのまま着用し、メイドさんが着るようなレースが幾重にも重なったフリフリの真っ白なエプロンを羽織った。
クラスのみんなが願を掛けてくれた、紫色のリボンのバレッタを頭の上に付けた。
準備万端。あとは彼を待つのみ。
ドタドタと階段を駆け上がってくる足音が、玄関の前で止まった。
一つ深呼吸して、満面の笑顔で彼を出迎えた。
「お帰り」
「あっ、ただいま」
ガタン、と扉が開いて、頼人が姿を現した。2度、3度、僕の顔を見て、目を真ん丸くしてた。
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