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「蓮、早く、タオルを返しなさい!」
「れんとおじちゃん、いっしょ。はだか、はだか」
キャッキャッと黄色い声をあげる息子に対し、葵は笑顔で、
「おじちゃんじゃないよ、お兄ちゃんだよ」
そう言って、脇の下をこちょこちょし始めた。蓮は体をくねくねさせながらくすぐったくて更に歓声を上げる。
「蓮も、葵も」
怒るはずが、ぷぅと、思わず吹き出してしまった。こんなにも、蓮が、楽しそうに笑っている。不思議。葵と迎さんにだけは初対面でもこんだけなつくのが。
「二人共、お願いだから、服を着て・・・」
最後は拝み倒すしか手立てはなく・・・
ほしのみや幼稚園は、俺が生まれた年に開園し、今年で創立三十五周年を迎えた。
俺も、葵も、ここの卒園生だ。
二代目園長だった、葵の叔母さんが、病気を理由に引退したのが、去年の春。子供がいなかった為、葵が後を継いだ。
お袋の話しでは、それまで、入園する子供が少なく、経営が、かなり、厳しかった。それが、葵が、園長になった途端、入園希望者が殺到したらしい。
ー葵君の笑顔が、園児のママ達を虜にするみたいよ。しかも、まだ、独身だし。
てっきり、妻子持ちだと思ってたから、まだ、独身と聞いて、驚いた。
あんだけ、格好いいのに、俺と違って、イクメン間違いないのに。
「蓮、いいか、せんせだぞ」
葵と約束した時間に、息子の手を引いて、卒園以来、初めて園舎を訪ねた。
事前に、何度も練習した。
あとは、蓮の口から、゛裸のおじちゃん゛がポロッと出ない事を祈るのみ。
職員室に案内して貰い、奥の、園長室から葵が出てきた。
今日は、ちゃんとした、スーツ姿だ。
蓮は、そんな、葵を不思議そうな眼差しで見上げていた。
「あっ!はだ・・・・うぅぅぅ!!」
あれだけ、せんせと、練習したのに。
慌てて、蓮の口を押さえた。
「ごめん、葵」
「別にいいよ、それより、そこに座って。園児用の椅子だから、小さいかもしれないけど」
窓側に、丸いテーブルと、小さい椅子が、四脚。
蓮と並んで座ると、先生が二人、僕達の前に座り、葵は普通の椅子を持ってきて、脚を組んで座った。
「右側が、すみれ組の担任のひとみ先生、左側が、蓮の補助に回る、大ベテランのみち先生」
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