524人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
鉢合わせ
葵が連れていってくれたのは、幹線道路沿いにあるファミレス。あまり、連れてきたことがない、と俺が言ったから。
幸せそうに食事を囲む家族連れを見るのが、嫌で。
なんで、蓮のママいないの⁉と、息子に言われるのが、なにより一番辛い。
蓮は、好きなお子さまランチのカレー。葵は、ビーフシチュー。
「真生は⁉」
「蓮、食べるときは食べるんだけど、食べないときは食べないから。なんか、匂いに敏感で、自分の鼻が受け付けないのは、基本、駄目だから。後で注文する」
蓮は、めんどくさい。
こだわらなくてもいい事に、こだわり、少しでも気に食わなければ、泣いて。
下手したら、朝から晩まで、一日中、泣いている事もある。
「こら、待て蓮」
じっとしてられないのも、蓮の特性で。
注文するや否や、席を立ち、店内をうろうろし始めた。
俺や葵に掴まり、席に戻っても、また、うろうろ。
「あっ!!」
蓮が、何かに、気付き、駆け出した。
「蓮、走るな」
俺の忠告は、当然ながら、息子の耳には届いていない。
案の定、目の前にいた、コップを手にした若い男性にその勢いで、突っ込んでいった。
ガッシャーン。
コップが割れる音が、店内に響き、それまで、騒々しかった店内が一瞬静まり返った。
「す、すみません。本当に、すみません」
その男性に頭を下げ、謝り続けた。
「パパ、お花のセンセ」
「はっ⁉」
息子の口から出たのは予想もしていなかった人で。おそるおそる頭を上げてみた。
「迎さん!」
息子の言った通り、目の前にいたのは、間違いなく彼で。
蓮は、嬉しそうに、尻餅をついた彼に抱き付いていた。
「センセ、センセ」
「ダメだよ、走っちゃ」
迎さんは怒るどころか、終始笑顔で。
やがて、その視線は、俺へと向けられる。
「佐田さん、奇遇ですね」
「あっ、は、はい。まさか、こんな所で出会うとは」
「そうですね」
その時、大丈夫⁉そう言いながら、彼に駆け寄る若い女性がいた。蓮は、きょとんとして、その女性を見上げていた。
「真生、大丈夫か⁉」
葵も来てくれた。
「蓮、おいで」
葵の言葉に、蓮は、
「えんちぉセンセ、お花のセンセ」
最初のコメントを投稿しよう!