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その時、携帯の着信音が静まり返る保育室に響き渡った。
「ごめん」
葵が上着の内ポケットからスマートフォンを取り出した。
「分かりました。では、月曜日の一時に伺います。いいえ、こちらこそお世話になってます」
電話はすぐに切れた。葵がゆっくりと一呼吸吐く。
「あのな真生。俺の両親田舎に移住して、今、いないんだ。あの馬鹿デカイ家に、一人でいるのも寂しくて、週二日か、三日、蓮を連れて泊りに来ないか⁉あまり、上手じゃないが手料理を振る舞ってやるから」
「あぁ、分かった」
「今晩・・・どうかな⁉」
「ごめん。明日も仕事で、朝七時出勤なんだ」
「そっか、パン屋さん、朝早いもんな。蓮はどうするんだ⁉預けるの⁉俺がみてようか⁉」
「社長のお孫さん達がいるから、大丈夫。あっちは、小学生だけど、結構、面倒見が良くて。有難う、葵。気を遣ってくれて」
他愛ない会話をするうち、葵は、普段通りの彼に戻っていた。
「日曜日、もし、泊りに来れるなら、電話して。ごめんな、蓮が待ってるのに・・・」
「葵⁉」
幼馴染みの勘、というやつか。
「悩み事あるなら、聞いてやる。でも、恋愛相談は、無理だから」
「分かってるよ。そんな事。奥さんに逃げられた、お前になんか相談しない」
悪戯っぽい笑みを浮かべる葵。
いつもの顔だ。
良かった、機嫌が直って。
「真生、うちの鍵渡しておく」
「はぁ⁉」
なんで⁉って顔したら、また、笑われた。
「蓮が、すぐ行きたいって、駄々をした時の為だよ。変な勘ぐりするな」
「そっか、それもそうだな。じゃあ、あとで、連絡する」
葵に、別れを告げ、急いで、蓮の所に戻った。
そして、その夜。
迎さんにお礼の電話を入れた。
丁度手が離せないみたいで、大したことないから気にしないでと彼。
明日仕事が終わったら連絡して、それで電話が切れた。
なんか、よそよそしい。
もう少し、話しがしたかったのに・・・
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