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彼の涙
彼が連れていってくれたのは、小高い丘の上に広がる公園。眼下に高速道路が走り、市内が、一望できる景色に、蓮は歓声を上げていた。
亀ヶ岡城址公園、市内に、こんな場所があったとは。
「高速道路のインターを建設工事中に、偶然、戦国時代の古城の遺跡が発見されて。それが、幻の天空の砦、亀ヶ岡城だったんです。当時は、保存か工事かで、かなり論争になってて、結局、一部を保存し、公園として整備したんです」
「詳しいですね」
「地元ですから」
芝生の上に、シートを敷き、蓮、お待ちかねのお弁当タイム。
「パパ、つごい」
三段重ねの重箱には、断面が花やパンダの形をした海苔巻きや、タコさんウィンナーや、唐揚げや、ハンバーグや、だし巻き玉子焼きや、煮物など。フルーツもこれでもかと、詰めてあって、しばし、言葉を失った。
「センセ、ようちえんのおべんと、これがいい」
「僕と一緒に暮らせば、毎日、作ってあげるよ」
「パパ、センセのとこ、いきたい」
蓮には、冗談が通じない。
「蓮がいなくなったら、じいじとばあばが泣くぞ。第一、迷惑だろ⁉」
頬っぺたを思いっきりぷぅーと膨らませる蓮。
「僕は構いませんよ。一人暮らしですし、大歓迎です。ねぇ、佐田さん⁉」
「は、はい」
彼の視線が、熱を帯びているようで。
見詰められる度、なぜか、息苦しくなる。
「僕の名前、凉に、太いで、涼太です。年は二十八です。佐田さんは⁉」
彼に聞かれ、名前と、年を告げると、驚かれた。
俺も、迎さんが、七才も年下と知り、びっくりした。
「涼太って、呼び捨てにしていいですよ。佐田さん、真生さんって呼んでもいいですか⁉」
今にも泣きそうな顔をされ。ダメと言ったら、本当に泣かれそうで。
俺と蓮の為、わざわざこうして、お弁当を作ってくれて・・・。唐揚げを口一杯頬張り、美味しいを連発する蓮の姿。こんな、息子を見るのは久しぶりだ。
「迎さん・・・じゃ、なかった、涼太。゛真生さん゛でも、゛真生゛でも、好きな方で呼んでいいよ。俺が年上でも、その、気を遣わなくていいから」
「じゃあ、真生って、呼びますね。何か、照れくさいけど、嬉しいです」
ん⁉涼太⁉
ごしごしと、目を擦る彼の仕草が気になって、よくよく見ると、彼は泣いていた。
何か、メチャクチャ、可愛い。
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