522人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
「パパ、おしごと、おわり⁉まだ⁉」
さっきから何回も同じことを聞いてくる蓮。
「何か楽しい事があるの⁉」
社長の奥さんが息子に聞くと、ニコニコした笑顔で大きく頷いた。
「仕事が終わったら、公園に連れて行く約束をしてるんです」
「あら、そうなの。それなら、もう上がっても大丈夫よ。丁度、お昼だし。蓮くん、パパの言うこと聞くのよ」
「すみません、奥さん」
頭を下げ急いで帰る準備をした。
「パパ、電話してくるから待ってるんだよ」
「うん!」
おっ、珍しい。蓮が返事した。
迎さんに電話すると、ここまで迎えに来てくれるみたいで、このまま駐車場で待つことに。
再就職するまでペーパードライバーだった俺。
都会(まち)は交通網が充実していて、車を使わなくても良かったから、運転免許証だけ、取り敢えず更新していた。
自分の車がないから、会社のワゴン車を借りたり、親父の借りたり。
数分後ーー
ベージュ色の軽自動車が、駐車場に入ってきた。
「佐田さん、すみません、お待たせして」
運転手席側の窓が開いて、迎さんが顔を出した。人懐っこいその笑顔に、自然と蓮も俺も笑顔になる。
「今日は、お世話になります」
彼に声を掛け蓮と一緒に後部席に乗り込むと、すぐに車が走り出した。
「狭くてすみません。軽の方が小回りがきくので」
迎さんが、ミラー越しに後ろをちらっと見てきた。
「蓮くん、着いたらお昼にしようね。お弁当作ってきたから、すこし我慢してね」
「は~い!」
今度も右手を上げちゃんと返事が出来た。エライ‼
「パパ、おべんとうだって」
蓮の目が燦々と輝いてる。
「迎さん、色々気を遣って頂いて、すみません」
「大丈夫です。僕、家事は得意なので」
迎さんと、何気に目が合い、何だか気恥ずかしくて、目を逸らした。
彼の視線が、纏う雰囲気が、普段の爽やかな彼とはあきらかに違っていた。
最初のコメントを投稿しよう!