先祖との交流日和
全1/1エピソード・完結
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夢の中に一角獣が現れた。首を縦に振りながら前足で地面を掻いている。背中には鞍が置かれていた。乗って下さいと言っているのだ。近づいて行くと脚を折って地面に伏せた。鞍に横乗りした。その途端、私は意識を失った。 気が付くと、シャトー▪ドゥ▪バザーシュというお城の中にいた。綺麗な女の人が豪華な部屋にいて、フランス語で話しかけてくる。フランス語が分かる訳ではないのに、心で理解できた。私が“ここはどこですか“と心の中で聞くと、“ここはフランスです“と答えが返ってきた。そして、こんな話をした。 “両親が死んでしまい、私ははユニコーンと一緒に一人でこのお城に住んでいます。もう一度、父と母に会わせて欲しい。時空を越えて国を越えて、今、心が旅をしています。そして十字軍に拐われたあの人も探して欲しい。バ▪ド▪カレからドーバー海峡を渡り、イギリスに連れて行かれたと風の噂に聞いています。ケンジントンの二番街アビーロード▪ストリート。大きな白い窓枠がある小さな家がある。そこに住んでいるメアリーと言う老婆を尋ねてほしい。右掌に赤いアザのある男を探しで欲しい。彼がすべてを知っているかも知れない。なぜ掌に赤いアザのができたのか。剣を握っていたから。“ ユニコーンが私に乗れと合図する。何だか分からないが、そうする以外になさそうだ。 目が覚めると小さな家があった。大きな白い窓枠。この家だ。ドアをノックする。“お入り“としゃがれた声が聞こえた。中に入ると、マントルピースの前にお洒落なチューダー王朝風のテーブルがあり、老婆がアフタヌーンティーをしていた。黒い猫が尻尾を立ててテーブルの上を闊歩している。老婆はしばらく私の顔をじっと見つめてから、こう言った。 “やっぱり伝説の使者が来たんだね。銀領の山を越え、氷の海を渡り、時空を越えて。待っていたよ。間に合わないかと思っていた。困難な旅だからね。マーキュリーはここにいるよ。“ 老婆が呪文を唱えて両手で円を描いた。黒猫がたちまち立派な騎士に変わった。“さあ、マーキュリー、この人を案内しておくれ。“ マーキュリーは頷いた。マーキュリーは私の手を取ると“さあ参りましょう。務めを果たしましょう。“と言う。外に出るとマーキュリーは再び私の手を取り、精神を集中した。そして二人でユニコーンの背に乗ると、手綱を握って叫んだ。“さあ出発だ!先ず谷間のゆりへ!“ 右掌の赤いアザがチラリと見えた。 谷間に沢山の白百合が咲いている。誰かが眠っているような静けさの中に。白百合の中に黄色い百合が二輪、寄り添うように風に揺れて咲いていた。その百合に強く心惹かれて、ユニコーンから降りて近づいた。手を触れると言葉にならない深い悲しみが湧いて、涙がこぼれ落ち、百合の花芯に触れた。その瞬間に私はベールに包まれ空洞の中に吸い込まれた。 目の前に大きな鏡があり、自分の姿が映っている。同時に二人の姿があった。王様とお妃だった。“ビアン▪ヴニュ。私たちはシャトー▪ドゥ▪バザーシュの持ち主です。十字軍に追い詰められてこの谷で命を落としました。娘はその時はブザック城にいたので助かりました。娘には、両親は桃源郷で健やかに暮らしている、未来にまた会えるから元気を出しなさい、と伝えて下さい。“ 私は頷いた。その途端、二人の姿は揺らめきながら消えた。 マーキュリーとユニコーンが待っている。黄色い百合に別れの挨拶をして、シャトー▪ドゥ▪バザーシュに戻った。彼女に両親からの伝言を伝えた。私の脳裏に刻まれた両親のイメージもテレパシーで伝わった。彼女はしばらく涙に暮れていたが、やがて涙を拭いて立ち上がり、私を包容しながら“ありがとう“と言った。 休む間もなくもうひとつのミッションを果たさなければ。“次はサラマンダーの巣窟だ“とマーキュリーが告げる。 火炎が立ち上る銀領を飛び越え、地鳴りと雷鳴が轟く渓谷をくぐり抜け、かんかん照りの砂漠を突っ切った。その後は記憶がない。目の前には夥しい気味の悪いイモリのような生き物が動めいている。“サラマンダーだ。刺激すると毒液を飛ばす。“とマーキュリーが言った。その傍らには長髪で髭ぼうぼうの痩せた騎士が立っていた。“明日、処刑されるところだった。もう駄目かと思ったが、夕べの夢は本当だった。来世の子孫が救いに来ると。ありがとう。サラマンダー達も助かったな。明日の火刑で火力を強めるために燃やされる運命だったから。“ ニヤリと笑った。 シャトー▪ドゥ▪バザーシュにその騎士を連れて戻れた時に私の心に湧き起こった喜びは、とても言葉に尽くせるものではなかった。勿論、彼女が猛烈に喜んでくれたことが嬉しかったことは間違いないが、それだけではない。先祖を救った?分からない。しかし、どうやら務めは果たした。彼女とその恋人に別れの挨拶をした。 朝の7時。随分とはっきり残った夢だった。アルパカの縫いぐるみの頭を撫でながら起き上がった。今日は先祖との交流日和かも知れないな。
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