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 詩織が食事をしているテーブルに、律は由紀奈と自分の朝食の皿を載せる。 さらにパンとコーヒーを運ぶと、匂いにつられたのか彼がテーブルを見た。 「欲しいものがあったらお好きにどうぞ」 すると詩織は、マグカップを取ってきてコーヒーを注ぎ、パンを一つ掴むと、それを頬張る。 やはりさっきのコンビニ飯だけでは足りなかったのかもしれない。 「三上さん…余計なお世話かもしれないですが」 律は、自分の朝食の皿を詩織に差し出した。 すると彼は一瞬、困惑したような表情を浮かべる。 「…いいよ、さすがにそこまでは」 「食べないよりマシ程度のご飯じゃ仕事に集中できませんよ。私は出勤の時間があるわけじゃないですし、自分の分は今からまた作ります」  律は皿を彼の前に置くと、さっさと詩織の箸を取ってきて同じようにテーブルに並べた。 「すみません。差し出がましいかもしれませんが、その…見るに忍びなくて」 詩織は束の間あっけにとられたような顔をしていたが、苦笑しながら箸を手に取る。 「忍びないって…独身の男なんて皆こんなもんだろ」  そこに、出勤の支度をあらかた終えた由紀奈が忙しない足取りで入ってきた。 二つある朝食の皿の一つを、自分の弟が手にしているのを見て、彼女は眉をひそめる。 「ちょっと詩織…律を言いくるめて食事を奪い取るのはやめなさいよ」 「誤解だ、これは」 「何が誤解よ。それ律の分でしょ」 由紀奈は、まるで餌にありついた野良ネコでも見るような目を弟に向けている。 「違うんです由紀奈さん、私が」 「何も違わないわよ。律、気を付けて。女を思い通りに動かすなんて、詩織には朝飯前のことなんだから」 「俺の心証が悪くなるようなことを言うな。そもそも姉貴だって俺にとやかく言える立場じゃないだろう。この家の家事を一手に引き受けることが同居人の資格だとでも言ったのか?」 コーヒーを勢いよく注いでいた由紀奈が、反論ありというようにサーバーを手荒に戻す。 「そんなこと言うわけないでしょ?私は料理なんてしなくていいって言ってるわ。これは律が好意でやってくれてるの」 「それは奇遇だな。この飯も彼女の好意だ」 「だからあんたの場合は、律がそうするように誘導して…」 「俺はエスパーか?」 大の大人二人だというのに、まるで学生みたいな姉弟である。 微笑ましく思うけれど、かといって笑ってみているわけにもいかない。 いつもは一秒を惜しむかのようなスピードで朝食を平らげて出かける由紀奈が、今日は弟をやり込めているせいで、食事のペースが落ちている。  律はいつまでも続きそうな二人のやり取りを止めるため、由紀奈に向かって叫んだ。 「由紀奈さん!早く食べないと遅刻しますよ!」
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