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#14
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三上家に住み始めて半月ほどが経つと、律の毎日は徐々に固定化していった。
律は職探しのかたわら、単発の仕事を始めた。
勤務がある日は働きに出て、何もない日は家事を済ませたあとに、自分の時間を過ごす。
ここでの生活は満足そのものだ。
当初抱えていたシェアハウスに関する不安も、今では綺麗さっぱり消えている。
由紀奈とは予想以上にうまくやれている。
時折帰ってくる弟の存在は予想外だったけれど、彼が現れるのは多くても月に一、二度程度だというのだから、それほど気にしなくても大丈夫だろう。
初対面は最悪だったけれど、その汚点も次に顔を合わせるときには忘れ去られているに違いない。
それに、次に詩織が帰ってくる時には、事前に由紀奈に連絡がいく。
だから律が彼の前で、初対面の時のような醜態をさらすことはもう二度とない。
一階にある自分の部屋と共用スペースの掃除を終えると、律は庭に下りて草花の手入れを始めた。
庭に手を加えることは、既に由紀奈に伝えてある。
彼女は「あんな原生林によく踏み込もうと思ったわね」と庭におぞましそうな目を向けながらあっさりと許可をくれた。
家主が“原生林”と評したところで過言ではないほど、三上家の庭は手つかずだ。
以前は、由紀奈の母親がまめに手入れをしていたらしいが、庭の主が家を離れてからは、ほったらかしの状態になったらしい。
由紀奈はガーデニングなんぞには全く興味がなく、庭に出てみたことすらないという。
律が、庭をいじっていいかと事前に由紀奈に確認したとき、好きにして構わないというおざなりな二つ返事が返ってきたところからも、彼女の庭への無関心さが窺える。
庭のあちこちには、かつて由紀奈の母が世話をしていた名残があった。
ハーブなどは、その最たるものだろう。
スペアミント、オレガノ、レモングラス、ローズマリー…地植えされていたそれらを植木鉢に植え替えて、世話をしやすいようにリビングの掃き出し窓のそばに置いた。
この方が、料理に使う時に収穫しやすい。
昼過ぎまでかかって庭仕事を終えると、最後に庭で摘んだガザニアの花をグラスに生けて、ダイニングテーブルに飾った。これは実家の母がよくやっていたことだ。
花を一輪飾るだけで、テーブルは華やかになる。
すべての仕事が片付くと、律は休憩とばかりに扇風機の前に陣取る。
体は滝のように汗をかいている。
冷房を入れたいところだけど、昼間はこの家には律しかない。
それを考えると、なかなかエアコンのスイッチを押す気になれなかった。
代わりに扇風機の風量を最大にして汗を飛ばす。
その間にスマホを開いて、女友達からのメッセージを読んだ。
彼女は律の破局を知ってから、何度も街コンやお見合いバスツアーなどを勧めてくれた。
今回も婚活パーティーへの誘いだ。
今まではその気になれなくて断ってきた。
今も、本音を言えば乗り気はしないけれど…いつまでもこんな状態でいてもしょうがない。
律は初めてその誘いに乗ることにした。
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