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#17
一人で余りものを片付ける夕食だったはずが、詩織が急に帰ってきたことで二人で食卓を囲むことになった。
先ほどから律が観ていたテレビのお笑い番組を話のネタに、盛り上がるというほどではないけれど、途切れ途切れの会話が続く。
といっても、何組か好きな芸人がいる律に対して、詩織の方は今流行りの芸人さえ知らず、頻繁に首を傾げる始末だったけれど。
日常ではほとんどテレビを見ることはない。彼はそう話しながら、合間に手元のスマホをのぞき込む。
そうやって詩織がスマホに気を取られている間、律は薄い黄金色のワインを口にしながらテレビの続きを追う。
ワインは彼に勧められて、一杯だけの晩酌だ。
詩織のスマホは10分に一度は振動するといっても過言ではないくらい頻繁に震えた。
その度に彼は手早くスマホを操作して、終わるとテレビに顔を向ける。
芸人のネタを真剣な顔で見ていたかと思えば、束の間笑ってその後、箸を動かしつつスマホを操作して、またテレビに目を戻して…その繰り返しだ。
その様子は、隣で見ているとかなり忙しなく映ったけれど、それでもテレビを見て二人で笑いあうのは、律にとって新鮮な時間だった。
アルコールでふわふわした頭に不意に、元恋人、真との思い出がよみがえる。
真はもっぱらスポーツ観戦の方が好きで、律は彼と一緒にお笑いを番組を観たことはほとんどない。
二人の観たい番組がかち合ったときは、律が彼にリモコンを譲った。
野球もサッカーも、律はほとんどルールを知らない。
理解できるのは、点が入ったかどうか、どっちが勝っているか、くらいだ。
だからリモコンを譲った後は、彼が食事もそこそこに贔屓のチームを熱狂的に応援する横で、ただ黙々と箸を動かしていた。
反対にお笑い番組を観て律が笑っている隣で、真は必ず芸人や芸風をあれこれ批判するばかりだった。
一緒に笑ったことはないように思う。
当時はそのことに不満を抱いたことさえなかったけれど、今思えば、そうした数々の違いも、うまくいかない点だったのかもしれない。
詩織の笑う声で、ふと現実に引き戻された。
次に付き合うなら、こういう時間を一緒に過ごせる相手がいい。
お笑いに限らず、同じ趣味を一緒に楽しめる男性だ。
といってもそれは目の前にいる家主の弟ではなく、これから出会う誰かと、ということだ。
そんな相手と、馬鹿みたいな話をしながら笑って過ごすのは、さぞ楽しいに違いない。
…もっとも、当分そんな話とは縁遠い日々が続くのだろうけど。
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