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#20
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静まり返った部屋を見回して、律は少し心もとない気持ちになる。
それもそうだ。今夜は一戸建ての家に自分一人しかいないのだから。
出張に行った由紀奈は、明後日の夜まで帰って来ない。
おまけに、今日と明日は詩織もここに来ることはないと由紀奈が言っていた。
彼女は自分が家を空ける二日間、弟をこの家に寄越そうとしたらしいが、あいにく彼は彼で予定があるのだという。
それを聞いて律はほっと胸をなでおろした。
彼と接するのは楽しくはあるけれど、まだ緊張するし、気を遣う。
それだったら多少心細くても一人で留守を預かる方が、はるかに気が楽だ。
日中は大体この家に一人でいるけれど、夜に一人になるのは初めてだった。
いつもつけているリビングの冷房も、自分一人だけだと使う気になれず、律は暑さをしのぐために窓を開けていた。
今日も今夏一番を更新したという気温は、夜になっても衰えを知らず、まさに熱帯夜だ。
ただ座っているだけでも皮膚にうっすらと汗が浮かぶ。
この気温と、今夜は家に自分しかいないという解放感から、律はキャミソールと短パンという恰好で、一階のリビングで過ごしていた。
暑さに負けて脱ぎ捨てたTシャツは3人掛けソファのアームに引っ掛けてある。
律は扇風機の強風を全身に受けながら、ぼんやりとテレビを見ていた。
特に見たい番組があるわけではなく、暑さで動く気になれないだけだ。
明日は朝から単発の仕事が入っているから、そろそろ寝た方がいいのは分かっているけれど。
テレビをつけたまま、だらだらとリビングのソファで過ごすうち、やがて睡魔に襲われた。
ベッドに入ろうと、うつらうつらとした頭で考えるが、体はなかなか動かない。
時折、姿勢が崩れて目を覚ましても、またすぐに眠気で意識が遠のいていく。
寝ては覚めを繰り返しているうちに、律はいつの間にか眠りに落ちていた。
どれくらい経っただろうか。物音がしたことで、はっと目が覚めた。
煌々と部屋を照らす電灯のまぶしさに律は目を細める。テレビもつけっぱなしだ。
いつの間にか寝ていたらしい。
壁掛け時計を見ると、12時半を過ぎたところだった。
テレビの音に交じって、誰かが廊下を歩いてくる足音が聞こえた。
怪訝に思いながら、律はのろのろとソファから上半身を起こす。
「由紀奈さん…?」
とっさに頭に浮かんだのは、彼女が予定の変更で急遽、家に戻ってきたという可能性だ。
しかし、リビングの入口に姿を現した人物を見て、律は息をのむ。
帰ってきたのは、詩織だった。
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