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#22
たっぷり5分ほど経った頃、詩織が二階から降りてきた。
「失礼しました」
目が合って開口一番、律は先刻の失態を詫びる。
「着替えたのか、残念だ」
茶化すような口調とは裏腹に、着替えた律を目にした彼は、ほっとしたような表情を浮かべていた。
彼が帰ってきた理由を聞こうと律が口を開くより先に、リビングの掃き出し窓を目に留めた詩織が低くうめく。
「窓が開いてる」
その指摘の意味が分からず、律は怪訝な顔で彼を見る。
「網戸ですよ?」
それでも詩織は理解できないというように眉根を寄せている。
「それは分かってる。なんで開けたんだ?」
「……暑かったので…?」
彼はエアコンを見上げた。
「冷房が故障したのか?」
「いいえ。ただ…一人だったので」
「頭数は問題じゃない。暑いなら冷房をつけろ」
命令じみた口調で告げると、詩織はエアコンのスイッチを入れ、リビングの窓を次から次へと閉めていく。
一人なのにリビングの冷房はつけられない。律が冷房をつけなかった理由を告げると、彼は首を傾げる。
「君がうちに入れている家賃は光熱費込だろう」
「そうですけど、でも」
「電気料金が多少増えたからといって、君に追加の負担を求めることはない」
「ですが、私が毎日一人でリビングのエアコンをつけてたら、間違いなく電気代は上がりますよ?」
たとえ当然の権利だと言われても、居候宅の家電をガンガン使うような度胸は、律にはない。
「気にするな」
気にするな?冷房を使い過ぎて責められるのならまだ理解できるけれど、なぜ冷房をつけないことを、これほど怖い顔で追及されなければならないのだろう?
「それに、むやみやたらにエアコンに頼るのはエコじゃないのでは?」
「環境配慮は結構だが身を犠牲にするな。不審者情報は聞かないが、この近辺が絶対安全というわけじゃない。それに熱中症の危険もある。窓を開け放して無防備に眠りこけるくらいなら、涼は冷房で賄え」
厳しい指摘に、律は驚くと共に反感を覚える。
もちろん、彼は理不尽なことを言っているわけではないし、間違ったことを言っているわけでもない。
でも、この言い方はまるで命令だ。
この家では“夏に窓を開けるべからず”という鉄の掟でもあるのだろうか?
「分かりました。由紀奈さんの許可を取ってから…」
「必要ない。俺が家主代理で許可する。それにどのみち姉貴も同じことを言うだろう」
「…そうですか」
冷房使い放題という確約はありがたいが、あまりにも押しつけがましい物言いに、律は礼を言う気にはなれなかった。
「…なんで帰ってきたんですか?」
率直な疑問だったけれど、つい今しがたのやり取りが苛立たしくて、詩織が帰ってきたことを責めているようなニュアンスになってしまった。
彼の方もそれを察したのだろう、眉をひそめる。
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